2021/7/26
6月、玉渓を移動するゾウの群れ。作物を荒らし、村へ侵入し、大都市に迫るゾウたちの姿に、中国全土がくぎ付けになった(PHOTOGRAPH BY HU CHAO XINHUA, REDUX)

英ロンドン動物学会のシュー・チェン氏も、既に元の保護区から500キロも離れてしまったゾウを、また同じ距離だけ歩いて戻すことは、たとえ人間の助けがあったとしても難しいだろうと考えている。

中国科学院のジャン・ジンシュオ氏を含む一部の専門家は、ゾウたちを麻酔で眠らせてからシーサンパンナへ運ぶ可能性も検討されていると、国営メディアに語っている。

麻酔作戦は、前例がないわけではない。19年に、雲南省の村に迷い込んで被害をもたらしたオスのゾウを、麻酔銃で眠らせてから生息地へ戻したことがある。しかしスクマール氏は、一度に15頭ものゾウを眠らせて運ぼうとした例は、アジアではこれまで一度もないのではないかという。

南アフリカでは過去にそういった例があるが、中国には専門知識もインフラもない。しかも、見通しのきく平原で作戦を実行した南アフリカと違って、深い森林に覆われた雲南省での作業ははるかに困難になるだろうと、スクマール氏は指摘する。グリーンピースの潘氏も、特に子どものゾウへのリスクを懸念する。

「ゾウの家族はとても仲が良く、警戒心が強いです。1頭でも麻酔銃で打たれれば、群れ全体が興奮して大変な結果を招く恐れがあります」

持続可能な解決法

現在実行しているまき餌と柵の設置は、野生動物と人間の接触を避けることだけを目的とした短期的な対策にすぎないと、シュー・チェン氏は言う。問題は、どのようにして、ゾウたちにとって持続可能で長期的な解決策を見つけるかだ。

ジョウ氏は、ゾウたちが今いる昆明の近くに彼らのための国立公園を新設するのが最善の策だと提案する。「雲南省にはたくさんの公立の自然保護区があり、その多くには、ゾウを一時的にすまわせることのできる環境があります。それを後に恒久的な生息地とすることも可能でしょう」

また、同省に既にある4カ所のゾウの保護区をつなぎ、ゾウたちが安心して自由に移動できる生態的な「回廊」を作ることも重要だと強調する。

スクマール氏もこれには同意し、インドでの経験を踏まえて次のように提案する。とりあえずゾウたちを狭い区域へ誘導し、そこで餌を与えて安全を確保する。その間に、近くで新たな生息地を探す。「中国が本気で野生のアジアゾウを保護したいと考えているのなら、この群れに新たな生息地を探してやるべきです」

(文 SHAWN YUAN、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年7月4日付]

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