2021/7/24

「遠く離れた地域の話」ではない

ヘイマン氏らは過去の研究で、エボラ熱のアウトブレイクは森林が分断された地域で発生しやすいことを突き止めていた。そこで、コロナウイルス感染のホットスポットとなりうる地域を見極める上でも基準にした。

森林の分断自体が、感染症のまん延の原因となるわけではない。「問題は、分断が何をもたらすかです」と、米ワシントン大学で寄生虫生態学を担当するチェルシー・ウッド助教は話す。なお、氏は今回の研究には関与していない。

「生息地が分断されると、その分断された生息地に押しこめられた野生動物と人間との接触が多くなります」。さらに分断が進めば、「人間と野生動物との間の境界が増え、相互作用の機会もどんどん増えます」とウッド氏は話す。

今回の研究で最も多くのホットスポット候補が確認されたのは中国だ。「中国では、森林の分断、家畜の増加、人間の居住地拡大が同時に起きています」と、論文の共著者でイタリア、ミラノ工科大学の博士課程に在籍するニコラス・ガリ氏は説明する。

また、日本、フィリピン、西ヨーロッパ(イタリア北部、スペイン、ポルトガルなど)の一部の地域でも、都市の拡張や家畜の増加、森林の分断が進んでいる場所があり、ホットスポットとなる可能性があることが明らかになったという。

「私のようにヨーロッパに住んでいると、人獣共通感染症が人間界に流出するリスクは遠く離れた地域の話だと思い込みがちです」とガリ氏は言う。氏が今回の研究結果に驚くことはなかったが、「私たちの視点に一石が投じられたことは確かです」

リスクを示した今回の地図は、あくまで理論に基づいたものであると研究者たちはくぎを刺している。「家畜の密度、森林の分断、人口密度が増加すると、人獣共通感染症の流出リスクが増大すると仮定されています。実際にそうだと証明するものではありません」とウッド氏は言う。

米ジョージタウン大学の地球環境変動生物学者コリン・カールソン氏も、ウッド氏に同意する。この地図は、「土地利用の変化が新型コロナ感染症の原因だと結論づけたわけではありません」とカールソン氏は指摘する。「それを知るすべはありません。保有宿主の正体も、中間宿主がいたかどうかも、まだ確認されていないのです」

それでも、論文の著者たちは、この地図が感染症の予防に役立つことを期待している。

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コウモリは最強の宿主
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