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各国都市で増えるミニ森林 宮脇方式、世界に浸透

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ナショナルジオグラフィック日本版

ある暖かい2021年6月の午後、オランダの町ユトレヒトでは、ニレとヤナギの茂みでカササギが鳴き、葉の上を甲虫がはっていた。すぐ隣には18階建てのビルが建ち、電車の線路が走っている。ここは、「ムジークプレイン(音楽の広場)」と名付けられた小さな人工森林だ。広さは、近くにあるバスケットボールコートとさほど変わらない。18年に木が植えられる前は駐車場だった。

同じような「ミニ森林」は、オランダ全土で144カ所に作られ、ユトレヒトだけでも7カ所にある。同国のミニ森林計画を率いる団体「IVNネイチャー・エデュケーション」によると、21年末までにその数は200カ所に増える予定だという。

小さな土地を活用してできるミニ森林プロジェクトは、日本の植物学者である宮脇昭氏の活動を下地としている。宮脇氏は、土地本来の若木を、間隔を詰めて植樹し、荒廃した土地に短期間で森林を再生させる方法を考案し、1970年代から各地で植樹活動を行った。

氏は日本の植生を広く研究・分類し、ミニ森林を作りたい場所の近くの森を調査して、その森を構成している主な樹木種を何種類も混ぜ合わせて植樹する。06年、旭硝子財団のブループラネット賞を受賞した際の論文で、宮脇氏は次のように書いている。「その土地に本来生えている樹木を中心に植樹し、自然の森の法則に従うこと」

宮脇氏の協力者である藤原一繪(かずえ)氏によると、密接して植えられた若木は互いに競うようにして太陽の光を求めるため、短期間で成長する。この方式は、1メートルしか幅がない狭い場所でも導入できるが、複数の種を混ぜて植樹するには最低3メートルの幅があったほうがいいという。

宮脇方式は、インドのトヨタの工場でエンジニアとして働いていたシュベンドゥ・シャルマ氏によっても広められた。09年に、シャルマ氏が勤務する工場に宮脇氏のミニ森林が作られたのがきっかけだった。

森林の成長ぶりに驚いたシャルマ氏は、起業してさらに研究を重ね、自宅の裏庭に同じような森を作った。14年にはオンライン講演会「TEDトーク」に出演し、誰でも土地本来の植生を利用したミニ森林作りが学べるように、独自の説明書を作成した。

それ以来、この考え方は世界中で人気を獲得し、シャルマ氏の会社「アフォレスト」はインドを中心に世界の44の都市で森作りを支援してきた。ベルギー、フランス、英国にも同様の森林が作られ、アジアではインドやパキスタンで、都市部における宮脇式植樹計画が進行中だ。

個人向けのキットも開発

シャルマ氏の指導の下、IVNは15年にオランダ初のミニ森林をザーンスタットの町に作り、独自のハンドブックを公開した。まず、近くに生えている樹木を調べ、その土地本来の種は何かを選定する。オランダには、ブナ、オーク、カバノキのほか、セイヨウカンボクやハシバミなどの低木が自生している。IVN創立者のダン・ブライヒロット氏によると、通常は20~40種の木や低木の苗を1平方メートル当たり3本ずつ植えるという。

IVNは地元の学校、住民、自治体と協力して、各地でミニ森林を作る公共プロジェクトを進めている。使用する面積は、大体テニスコート1面分の200~250平方メートルだ。土地はどんな形でも構わないが、IVNのハンドブックでは、少なくとも4メートルの幅が必要とされている。費用は、森林で自然教育を行う教師の訓練なども含めて平均2万~2万2000ユーロ(約260万~290万円)かかり、IVNと自治体がこれを折半する。

個人の場合はそれよりも安く、3000ユーロ(約40万円)以下で自分の所有する小さな土地にミニ森林を作ることができる。ブライヒロット氏によると、現在オランダには約60カ所の裏庭にミニ森林があるそうだ。さらに狭い土地しかないという人のために、19年には6平方メートルでできる超ミニ森林キットを開発した。オンラインで、124.95ユーロ(約1万6500円)で注文できる。

ユトレヒト市の緑化計画の上級顧問を務めるイエロン・シェンケルズ氏は、自然の力を利用して都市部での熱波の影響を和らげ、土壌の保水力を向上できるとして、ミニ森林に期待を寄せている。

豊かな生物多様性

オランダのワーヘニンゲン大学の研究者が21年4月に発表したデータによれば、ミニ森林には様々な動植物が集まってきていることがわかる。ボランティアが11カ所のミニ森林を調査したところ、動物は636種、植物は最初に植えられた種以外に298種が観察された。森林管理としては、時折しつこい雑草を抜くほかは、ほとんどの場合、野草など新しい植物が生えてきてもそのままにしておくと、ブライヒロット氏は言う。

世界自然保護基金(WWF)は20年、オランダに生息する野生生物の個体数が過去30年間で半分に減少したという報告書を発表した。なかでも、チョウ、鳥類、爬虫(はちゅう)類が深刻な打撃を受けている。だが、WWFでオランダ森林部門長を務めるスザン・バルクマン氏は、小さなプロジェクトでも都市部で生物多様性を広げることは可能であることを、ミニ森林のデータは示していると話す。

CO2の吸収・固定も

二酸化炭素(CO2)の吸収固定に関しては、このミニ森林方式は、オランダでのほかの形態による森林再生プロジェクトと同等の効果があるという暫定的なデータが出されている。ワーヘニンゲン大学の研究で、ミニ森林は20年に平均して約127.5キログラムのCO2を固定していたことが明らかになった。この割合は、同じくオランダにある別の10年未満のより広い若い森林とほぼ同じだ。

ミニ森林だけを比べてみると、場所によって固定量にはばらつきがある。最も古いミニ森林の一つであるザーンスタットの森林は、面積が245.7平方メートルで、20年の固定量は631.2キログラムだった。一方、アルメレという町に18年に作られた新しいミニ森林は、面積が231.6平方メートルで、固定したCO2の量はわずか4.3キログラムだった。だが、この場所では何者かによって樹木が傷つけられたため、固定量が減った可能性があるという。

このほか、別の場所での同じ樹木種による炭素固定量を含む研究を基に、平均250平方メートルの森林が成長した場合、年間250キログラムのCO2を固定するようになるという予測結果が出されている。この数字は、オランダにある10~50年程度の年齢の森林の平均的な固定量とほとんど変わりがない。ワーヘニンゲン大学による20年の研究では、10~50年程度の年齢の森林において、ミニ森林と同等の面積の場合に固定できるCO2の量は、年間227.5キログラムとされている。

ブライヒロット氏は、興味深い数値ではあるとしながらも、小さな土地の森林だけで気候変動を解決することはできないと指摘する。炭素排出量を削減することだけが、気候変動の唯一の解決法なのだ。

「このプロジェクトの主な目的は、人々と自然を結びつけることです。炭素固定もできるなら素晴らしいことですが、これに関して私たちは目標を設定しません」

英オックスフォード大学の「自然に根差した解決策イニシアチブ」に参加するセシル・ジラルディン氏は、5月12日付で学術誌「ネイチャー」に発表した論文で、55年に地球の平均気温が工業化以前よりも1.5度上昇すると仮定して、自然に根差した大規模な解決策を世界的に実施した場合、気温の上昇を0.1度分下げられると指摘した。自然に根差した解決策は一定の効果はあるものの、経済の脱炭素化にとって代わるものではないと、ジラルディン氏は言う。

ミニ森林は、炭素固定の側面から評価するのではなく、都市部の気温を下げ、土壌の保水力を改善させ、生物多様性をもたらすという点に注目したほうがいいという。

土地本来の樹木は、その土地の環境に適している。それらを選んで植えることによって、長期間生存可能な生態系を作ることができる。だが、ミニ森林を作るために自然の草地を削ったり、公共の庭園を撤去するようなことは避けるべきだとも、ジラルディン氏は言う。

そして、プロジェクトは森林に限らず、たとえば自然な草地をそのまま保存することなどを検討しても良いのではと、同氏は提案する。「ミニ森林と呼ぶのではなく、ミニ生態系と呼んだらどうでしょう」

(文 ELIZABETH HEWITT、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年6月25日付]

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