日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/7/21

レム睡眠の重要性についてはこれまで、記憶や学習においてこれがどれほどの役割を果たしているかをめぐって、多くの議論がなされてきた。イルカは高い知能を持っているが、レム睡眠を経験することは決してないだろうと、米ペンシルベニア大学の神経学者デビッド・ライゼン氏は言う。なぜなら、陸生動物と同じように筋肉の弛緩を経験すれば、イルカは海の底に沈んで溺れてしまうからだ。

イルカが一度に脳の片側でしか寝ていないのだとすれば、「彼らは眠っているのでしょうか、起きているのでしょうか。これに対する単純な答えはありません」とシーゲル氏は言う。

鳥の仲間にも、脳の半分で眠りながら飛ぶものがいる。

海の上を何カ月も飛び続けるオオグンカンドリは、上昇中や滑空中に半球睡眠をする。飛行中にオオグンカンドリが眠るのは、水に落ちずに高度をかせげる上昇気流に乗っているときだけで、この間に彼らは主に半球睡眠で10秒間という短い睡眠を確保し、1日に40分ほど眠っていた。

オットセイもまた、泳いでいるときは脳の片側で眠るが、陸上では人間と同じく脳全体で眠る全球睡眠に戻る。

寝不足の解消が不要な動物も

動物が体を休める形にはさまざまなものがある。シーゲル氏によると、標準的な睡眠の定義は「活動や反応が低下しており、それを急速に元に戻せる状態にある期間」であり、睡眠が不足した場合には解消が必要となる。

睡眠不足の解消については、「すべての哺乳類に普遍的に当てはまるわけではない」とシーゲル氏は言う。オットセイの場合、水中では睡眠時間が極端に短くなるが、陸上に戻ったときにリバウンド睡眠をとる(不足分をとり戻すためにより長く、深く眠る)必要はないという。

一方、ショウジョウバエは睡眠不足を解消する必要があると、ライゼン氏は言う。ショウジョウバエは完全な暗闇の中では12時間連続で眠ることができる。睡眠が不足した場合、彼らは次の睡眠サイクルで長めに眠り、また「繁殖意欲や成功率も低下」する。ハエでも哺乳類でも、十分に眠らなければ課題学習の成績が悪化するものの、19年に学術誌「Science Advances」に発表された研究では、極端な睡眠不足でもショウジョウバエの死亡率は変わらないことが明らかになった。

リバウンド睡眠の必要性は、ホメオスタシスという、生体を一定の状態に保とうとする機構の働きを示唆しており、これが睡眠は動物に必要であるという一般的な科学的見解の裏付けとなっている。

しかし、だれもがこれに同意するわけではないと、ライゼン氏は言う。例えば、トビイロホオヒゲコウモリは最も長く眠る動物のひとつで、24時間サイクルの中で20時間の睡眠をとる。しかし、それは必要に迫られてのことではない。

「コウモリは蚊を捕食しますが、その蚊はおそらく1日に4時間しか活動しません。それ以外の時間はコウモリにとって起きている理由がなく、彼らはただエネルギーを節約するために眠るのです」

睡眠・休息・静止・休眠

睡眠と、休息や静止と呼ばれる状態との違いは、反応性の低下(目覚まし時計を無視している間の時間を想像してみてほしい)だ。

「眠っている間に、だれかが自分の名前をささやいても、あなたは反応しないでしょう」とライゼン氏は言う。一方で、休息状態にある動物は、刺激に対してより素早く反応する。

サカサクラゲは夜間、静止状態に入ることがわかっている。クラゲの傘の拍動回数は昼間の3分の1となり、食べ物などの刺激に反応しにくくなり、夜間に眠らないよう起こされていればその活動量は17%減少する。

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睡眠は生き残り戦略
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