吉田羊さん 年齢非公開貫き、常に自分を「更新」

最近では、主に女性の佇(たたず)まいを称賛する言葉として、「奇跡のアラフォー」「奇跡のアラフィフ」といった表現が様々な場面で使われるようになりました。多くの人の興味をひきつける魅惑的な表現ですが、さらにミステリアスな表現といえば「年齢不詳」になるのではないでしょうか。

(イラスト:川崎タカオ)

公開されているプロフィルで年齢非公開を貫いている方の1人が、女優の吉田羊さんです。実は、年齢を公表しないのには明確な理由があり、「実年齢にとらわれないキャスティングをしてもらいたい。年齢で演技の幅を決められたくない」という意志が込められているのだそうです。

演じているのは、医師や弁護士、一流企業の管理職など、知的な職業に就く30代のバリキャリ役から、映画『ビリギャル』(2015年公開)で演じた、女子高生の主人公をひたむきに支える40代の母親役にまで至ります。どのような作品においても吉田さんの佇まいは役柄の年齢に適合し、確実な存在感を示しています。

年齢非公開については様々な意見がありますし、自然体である姿が好まれる風潮もあります。しかし吉田さんの場合には、年齢不詳を武器にし、自分自身とはかけ離れた役柄も演じるという課題に挑み続けているのです。

安心してしまったら、成長は止まる

自らに課題を与え続ける――。

このことに関し、注目した言葉があります。「朝日新聞デジタルマガジン&[and]」で吉田さんがシンガーソングライターの高橋優さんと対談した際のこんな発言です。

「俳優に限らずですが、何かを手に入れた瞬間に次の課題が見つかったり、なくしてしまうかもしれない不安が同時に生まれたりすることはあると思う。安心なんてないなと感じます」

特に、「安心なんてないな」という言葉に注目しました。

この対談のなかで、吉田さんは、小劇場から映像の世界に移っても「なかなか知名度は上がりませんでした」とご自身の歩みを振り返られました。テレビドラマ『HERO』(フジテレビ系)への出演で知名度がぐっと高まった吉田さんですが、無名だった小劇場時代のご自身と「何も変わっていない」(同対談より)との思いがあるとか。

自分は変わっていないという思い。この思いは言い換えれば、これだけ人気女優として成功を収めながらも、ご本人のなかで「無名だった時代の自分にいつ戻るか分からない」といったある種の危機感があるということではないでしょうか。

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自分との戦いを続ける努力