映画『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソンが手掛けたドキュメンタリー映画『ザ・ビートルズ:Get Back』が、2021年11月25日から3回に渡って、ディズニープラスで配信されることが決定したビートルズ(映画に関しては記事「ビートルズ映画『ゲット・バック』 未公開映像に興奮」参照)。実は解散から50年がたった20年から21年にかけて、メンバー4人の「新譜」がそろって発売されることでも話題になっている。
ポール・マッカートニーとリンゴ・スターは正真正銘の新譜を発表。ジョン・レノンに関してはソロアルバムの50周年記念盤が発売された。そしてジョージ・ハリスンも、ソロアルバム50周年記念盤の発売が8月6日に決定したのだ。それぞれの「新譜」の位置づけや聴きどころについて、ビートルズ研究家の広田寛治氏が解説する。まずはポールの新作を取り上げる。[※特に注記がない場合、本文中の『』はアルバム名、「」は曲名を示している。]
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パンデミックが世界を覆い重苦しい空気が漂うなか、2020年末からリンゴ・スターとポール・マッカートニーの新譜が相次いで発表された。
20年12月15日、リンゴが豪華ミュージシャンたちとリモート・レコーディングで完成させた新曲「ヒアズ・トゥ・ザ・ナイツ」を発表。その3日後の18日、ポールが自宅スタジオに籠もり1人で作りあげたアルバム『マッカートニーIII』が発売されたのだ。さらに年が明けた21年3月19日には「ヒアズ・トゥ・ザ・ナイツ」を収録したリンゴの新作EP『ズーム・イン』が発売。この世に残された半分のビートルズは、解散から50年を経ても、今なおバリバリの現役なのだ。
1人で『マッカートニーIII』を作り上げたポール。豪華メンバーの助けを借りて新作を作り上げたリンゴ。2人の新しい作品を聴いていると、50年前のビートルズ解散後にソロ活動を開始した当時の2人の姿がダブってくる。
■音楽人生の転機に1人で作った『マッカートニーIII』
『マッカートニーIII』は、全米初登場1位を飾った『エジプト・ステーション』以来2年ぶりとなるポール18枚目のソロアルバムだ。今回は全米チャートでは2位だったが、31年ぶりに全英1位を獲得している(スコットランド・オランダ・ドイツで1位、日本5位)。

ポールによると、このアルバムはRockdown (lockdownにrockをかけて「ロックができない」の意味を持たせている)の間に、イギリスのサセックスにある自宅スタジオで録音したものだ。家族と生活しながら、作りかけの曲をひっぱり出して楽しんでいるうちに形になったのだという。多くの曲はポールがギターやピアノで弾き語りしたものに、みずからベースやドラムを重ねて完成させており、ポールならではの全曲自作自演・多重録音・自己プロデュースで作り上げた正真正銘のソロアルバムなのだ。