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「首切り王子」 これぞ僕の思うプリンス(井上芳雄)

第96回

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NIKKEI STYLE

日経エンタテインメント!

井上芳雄です。7月はPARCO劇場で上演している新作のストレートプレイ(セリフだけの演劇)『首切り王子と愚かな女』が4日で千秋楽となり、その後、大阪、広島、福岡と地方公演が続きます。毎日お客さまの反応や声を聞きながら、自信を持ってお届けできている手応えがあるし、演劇ならではの楽しみ方ができる作品だと感じています。

今回の作品は、まず舞台の作りが変わっていて、セット全体が稽古場のようなチャレンジングな構造です。木の箱を組み合わせた島がいくつかあって、俳優自身がそれを動かしたり組み合わせたりして、いろんなシーンに見立てます。具体的なものはほとんど出てこなくて、お客さま自身が想像力でいろんな情景をイメージしてほしいと思って演じているのですが、思った以上にそれを楽しんでくれているみたいで、うれしいですね。

舞台の周りには、見える楽屋があって、役者は出番が終わったらその楽屋に戻ります。お客さまからは見られっぱなしで、どう見えているのかはいまだによく分からないのですが、日に日に慣れてきて、客席に知り合いがいないか探したり、隣の若村麻由美さんや伊藤沙莉さんとしゃべったりする余裕も出てきました。

作・演出の蓬莱竜太さんの意図としては、この舞台装置は稽古場をそのまま見せたいということだと思います。なぜそう思ったのかは僕には分からないですが。やっぱり稽古場でやってることはすごくクリエイティブで、稽古で感動することもたくさんあります。そういう演劇をつくっていく面白さを伝えたかったのではないでしょうか。稽古場感を強調するために楽屋が周りにあるのだろうし、後ろにあるパネルも防音シートみたいで、本当に稽古場やスタジオにあるようなものです。窓が1カ所あるのも、実際にそういう稽古場が存在しています。特に今回はファンタジーで、架空の時代や国の話なので、イメージを限定しないという意味でも面白い試みだと思います。

「首切り王子」というタイトルなので、僕もさんざんネタにしましたが、見に来られる方はダークでアウトローなプリンスを想像していたと思います。僕も最初はそうでした。でも、実際に首切り王子トルを演じてみたら、やればやるほど、これこそが王子じゃないか、という気がしています。2番目の王子なので正統な第1王子ではないのですが、生まれながらに人生の立場が決められていて、母親の愛が欲しかったり、みんなに愛されたかったりするのに、それがかなわず、権力で言うことを聞かせようとしてもうまくいかなくて、本人も苦しむ。誰にも理解されない孤独や飢えこそが、僕の思う王子だという気がしています。

歌も印象的に使われています。子どものころ、離島で従者と2人で暮らしていたときに従者が歌っていた歌を、ときおり口ずさみます。首切りという残忍な行為をしているトルですが、歌い出すとすごく純粋なものが出てきます。蓬莱さんが、僕にあてて台本を書いてくれたこともあって、今までに演じて積み重ねたものを生かしつつ、自分の子どもたちのことを投影したりとか、実人生での体験も反映させながら、お芝居をしています。

歌はミュージカルの曲とは違って、基本的に歌詞がなく、あーという声で歌っているだけです。蓬莱さんは「セットは簡素だけど、音楽はすごく荘厳にしたい」と言われていて、面白いなと。それで音楽の阿部海太郎さんが、ローマ・カトリック教会で歌われるグレゴリオ聖歌みたいなテイストの曲をつくってくれました。その曲がすごいのは、どこから歌ってもいい構造になっていること。ミュージカルなら、前奏4小節あって入るとか、この箇所まで待ってセリフと合わせて入るとかなのですが、この曲の場合は、自分の好きなところで歌い始めて、歌い終わることができます。お芝居のなかで自然に歌い出せるのも、そういう音楽のからくりがあるから。その曲のバージョン違いがいろんな場面で使われていて、音楽も作品の世界観をつくる重要な役割を果たしています。

歌うときは、感情を入れたり、ビブラートをきかせたりはせずに、鼻歌を歌うような感じでと心がけています。セリフで怒鳴ったり、叫んだりしまくっているので、ミュージカルのような歌い方はできないということもあります。もう少し軽くやったり、力を抜いたりしたいのですけど、物語がそれを許さないところがあります。蓬莱さんには「この作品は全部が劇的なセリフでできてるんです」と言われました。たしかに、何でもない会話はほとんどなくて、ある種の極限状態がずっと続くので、毎回全力で演じるしかありません。それは僕の役だけじゃなくて、どの役もそうだから、1回その世界に入ったら、みんな抜け出せないという感じです。

演技スタイルの違いも役の設定に反映

共演者はほとんどが初めてご一緒する方で、素晴らしい人たちばかりです。伊藤沙莉さんは、「愚かな女」ことヴィリの役。崖から身を投げようとしたときにトルと出会い、召使いとして仕えるうちに、トルとの関係がどんどん変わっていきます。お芝居に入ったときの集中力が素晴らしくて、本当にそう思っているように見えるし、それを自然な感じで演じられる、すてきな女優さんです。決して手を抜かないし、力んでいる感じもないし、若いのにすごいなと思います。基本的には映像のお芝居が多くて、舞台は久しぶりだと言っていたので、僕とはお芝居してきたフィールドが全然違うと思うんです。蓬莱さんは、その演技スタイルの違いも役の設定にうまく反映させてくれています。民衆の1人と王子という立場で出会った時の会話と、関係が深まってからの2人の会話がまた違っているのも、お互いのキャラクターを表していて面白いし、そんな2人が距離を縮めていくところも、とてもやりやすくて心が通います。

若村麻由美さんは、トルの母親で永久女王デンの役です。舞台をいろいろ拝見していたし、いろんな演出家のお芝居を経験していらして、素晴らしい女優さんなのは知っていましたが、初めてご一緒して素の一面も知りました。ご本人が言うには、1年の半分ぐらいは探し物をしているそうです。たしかに、よくスマホをどこかに置いてきたり、何かをなくしたりしています。普段はそんな感じなのですが、ひとたびお芝居に入ると別人のようになって、倒れるシーンで本当に頭を打ってしまったりとか、いい意味で調整をしないガチの演技を見せてくれます。その全力具合は、舞台を見ていただけでは分からなかったので驚いたし、すごいと思いました。お芝居を一緒にやっているのが面白くて、楽しいです。

高橋努さんは、トルの命令で反乱分子の首を実際に斬る役割を務める兵士長ツトムの役です。努さんとは、僕が前に出た蓬莱さんの作・演出作『正しい教室』(PARCO劇場/2015年)でご一緒したので、今回唯一共演したことのある方。努さんの演技は、誇張したり大げさにやるのではなく、心の中にあるものをそのまま出しているのがすてきだし、蓬莱さんの世界にも合っているように思います。役を普段から自分の中に落とし込むというか、苦しみや痛みをずっと持っています。なので、今回の首を斬る役は、すごくつらいと思います。稽古場でも日に日に顔色が悪くなって、お酒を飲まないと寝られないみたいな感じでしたから。四六時中役のことを考えて、役とともに生きている努さんの在り方は、僕にはなかなかできないことなので、尊敬しています。

入山法子さんは、トルの妻である王女ナリコの役です。"王子あるある"で、自分の意思とは関係なく結婚させられているから、トルはナリコにつらく当たります。なので入山さんも、努さんと同じようにつらいシーンが多く、役とはいえ僕とはあまり幸せな関係ではないので、申し訳ないような気持ちです。普段はふんわりした柔らかい空気の方なのですが、稽古に入ると、どんどんヴィリにきつい言葉を投げかけていって、日に日に王女の顔に変わっていったのはさすがでした。飛び込むことを恐れない女優さんで、演出的にもっとこうしてみようとか、こっちはどうだろうと言われたときに、臆せず飛び込んでいくところがすてきだし、一緒にやっていて得るものが大きいです。

太田緑ロランスさんは、ヴィリの姉である近衛騎士リーガンの役です。本当に演劇が好きで、いろんな演出家の舞台に出ているし、こういうふうにお芝居したいと思わせてくれるような演技をされます。生きた会話ができて、演劇的な見せ方の可能性を常に探ろうとしていて、ひとつのやり方に固まることなく、アイデアもたくさんある。妹のヴィリと言い合いをして、リーガンが自分でセットを動かしながら、自分はもう城に行くことに決めたんだ、と言う場面があるのですが、その動きは太田さんのアイデアです。自分で動かしながら演じると、自らの状況を変えようとしていることが視覚的に伝わるねと、みんなが納得しました。とても演劇的な人だなと思います。

石田佳央さんは、大臣ドーヤネンという不思議な名前の役ですけど、ぴったりだと思います。国家に仕えて、実際に政治を回している役どころで、すごく説得力のあるお芝居をされています。劇中でみんながスローモーションで動く場面がいくつかあるのですが、石田さんがやり方をみんなに教えてくれました。自分の手や足がどう動いているかを1回理論的に理解してから、それを遅くします。走るのはさらに難しくて、実際は空中に浮いている時間もあるはずだし、どこかの動きだけ速くなると嘘になるから、正確にやろうとすると、ものすごい筋肉の使い方をしないといけません。スローモーションをちゃんと教えてもらったのは初めてくらいなので、ありがたかったです。

和田琢磨君は兵士ロキの役です。『テニスの王子様』や『刀剣乱舞』の舞台に出ていて、2.5次元俳優として活躍しています。稽古中はマスクをしていたので、目だけでもすごいイケメンだったのですが、マスクを取るとさらにイケメンだったので驚きました。でも、そんなことをまったく鼻にかけないし、気持ちのいい青年です。お芝居に関しても、すごくまじめで一生懸命。ロキは、登場人物の中で唯一明るくて朗らかというか、希望を持てるキャラクターなので、とても合っています。僕が気になっている2.5次元のことを教えてもらったりして、そういう点でも刺激を受けました。

今回は6名のアンサンブルと呼ばれる俳優さん達もいて、第一声からラストのセリフまで重要な役割を担っています。それぞれが役をまとう時もあれば、シーンに合わせて装置を印象的に動かしてもくれます。個性の違うこの6名なしには、成立しない舞台です。

自分も作品を作る要素のひとつになれている

演出の蓬莱さんは、毎日舞台を見てくれています。お客さまの反応を楽しんでるんじゃないでしょうか。蓬莱さんは、いい意味で演出家らしくありません。終演後にみんなで話しても、出演者の1人のように、今日のお客さんはこうだったよね、などという話をしています。役者からすると、演出家に何か言われるとなると、ダメ出しされるのかなとか思ってしまうのですが、全然違います。演出家というよりも共演者や先輩俳優みたいな感じがしていて、僕にとっては稀有(けう)な存在です。

東京の公演は終わりが近づきました。日々お客さまの反応や声を聞きながら、自信を持って作品を届けられているという実感があります。ストレートプレイに出るときは、どこかで自分はお芝居の人間じゃないからと思うところがあったのですが、今回はそれがなくて、自分も作品を作る要素のひとつになれていて、みんなで面白い演劇を作っていると感じます。演劇ならではの楽しみ方ができる作品で、やっぱりお芝居って面白い。だからこそ1人でも多くの人に楽しんでほしい、という思いで最後までやりたいです。

その後の大阪、広島、福岡での地方公演も、反応が楽しみです。久しぶりにお芝居を見たという人もいれば、今の世の中を反映させている物語だねと感想を言われる人もいます。いろんな人に、いろんな見方をしてもらえたらうれしいですね。それが演劇本来の喜びや楽しみ方でもあるでしょうから。

『夢をかける』 井上芳雄・著
 ミュージカルを中心に様々な舞台で活躍する一方、歌手やドラマなど多岐にわたるジャンルで活動する井上芳雄のデビュー20周年記念出版。NIKKEI STYLEエンタメ!チャンネルで月2回連載中の「井上芳雄 エンタメ通信」を初めて単行本化。2017年7月から2020年11月まで約3年半のコラムを「ショー・マスト・ゴー・オン」「ミュージカル」「ストレートプレイ」「歌手」「新ジャンル」「レジェンド」というテーマ別に再構成して、書き下ろしを加えました。特に2020年は、コロナ禍で演劇界は大きな打撃を受けました。その逆境のなかでデビュー20周年イヤーを迎えた井上が、何を思い、どんな日々を送り、未来に何を残そうとしているのか。明日への希望や勇気が詰まった1冊です。
(日経BP/2970円・税込み)
井上芳雄
 1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP)、『夢をかける』(日経BP)。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第97回は7月17日(土)の予定です。

夢をかける

著者 : 井上芳雄
出版 : 日経BP
価格 : 2,970 円(税込み)

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