その一例が、昨年8月から富山県朝日町で実施している『ノッカルあさひまち』という実証実験だ。高齢化や公共交通の衰退という課題解決を目指し、自家用車を持つ住民がドライバーとなって町内の住民を送迎するサービス。博報堂が自動車メーカーのスズキと朝日町と生活者をつなぐ役目を果たしたという。

理系人材も成長する、チームの力

もともと博報堂にはチームでの対話を重視する独特のカルチャーがあったというが、こうした形でのコラボレーションが増えるにつれ、多様な人が集まる大きなチームで「対話をリードしていく力」がこれまで以上に問われるようになった。その観点から新人に薦めているのが『凡才の集団は孤高の天才に勝る 「グループ・ジーニアス」が生み出すものすごいアイデア』(ダイヤモンド社)だ。

こちらは米国で2008年に出た本で、電子メールやライト兄弟の飛行機、ピカソの絵画など古今東西の発明やアートを例に引きながら「たった一人ですごいアイデアを生み出した人なんていない」と指摘。イノベーションの鍵となるのは、一人の天才のひらめきではなく、人と人との相互作用、コラボレーションだと説く。

「この本にはチームで働く意義や楽しさがわかりやすく書かれています。『アイデアは人ではなくチームでの雑談に宿る』『アイデアの下では皆平等』という当社の中で受け継がれてきた考え方とも一致します。採用を強化しているデータ系などの専門人材に、持てる力を最大限発揮してもらうためにもチームの力は欠かせません。インターンシップで専門性の高い理系の学生が、当社のトップクリエイターとセッションを経験することによって、短期間にぐっと成長する姿を何度も見てきました。クリエイティビティはチームで働く中でこそ、伸びるものなのです」

どんなチームにおいても重要なのは、自分の考えを伝え、他人の考えを受け入れ、そこから最高の発想を生み出していく姿勢。「最初は他人の考えを受け入れるのは難しく、ついついYes, butとなりがち。相手を常にリスペクトし、Yes, andでつないでいく。そういう作法を学んでいってほしい」と沼田さん。

同社の新人研修では入社2年目から社長まで、のべ200人の現役の社員・役員が講師を務める。共通のテキストはなく、話す内容は人それぞれだというが、講師陣の話を要約していくと、クリエイティビティについては『ハイ・コンセプト』、チームについては『凡才の集団は孤高の天才に勝る』の内容に行き着くはずだという。

「やはりこの2冊は、社会で成長していくために何が必要かを考える上で、欠かせない本だと思います。当社の新人だけでなく、若い社会人に広くお勧めしたいですね」

(ライター 石臥薫子)

ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代

著者 : ダニエル・ピンク
出版 : 三笠書房
価格 : 1,980 円(税込み)

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