『夜に駆ける』『うっせぇわ』…ヒット生み出すボカロP
特集 新ヒットメーカーの条件(8)
今の音楽界では、どんなクリエーターに注目が集まっているのか。シーンの中心で活躍するアーティストたちに関わる、話題のクリエーターを見ていく。
近年、曲を自作することに加え、編曲家やプロデューサーに至るまで指名する、トータルプロデュース型のアーティストが増えている。2020年にリリースした『STRAY SHEEP』が150万枚を突破した米津玄師が、近年タッグを組むのが、現代音楽家の坂東祐大。先のアルバムにも収録する『海の幽霊』『馬と鹿』(ともに19年)や、『パプリカ(セルフカバー)』(20年)などに共同編曲家として参加。今年30歳の坂東は東京藝大卒で、クラシックや現代音楽を軸に活動しており、米津のサウンドに新たな風を吹かせている。
気鋭のシンガーソングライターとして評価が急上昇中の藤井風も、『何なんw』(19年)以降、音楽プロデューサーのYaffleをパートナーに迎える。iriやSIRUPといった若手R&Bシンガーから、シティポップ系バンドのAwesome City Club、柴咲コウやadieu(上白石萌歌)まで手掛ける多彩なサウンドメイク術で、藤井の楽曲にバリエーションをもたらしている。
あいみょんは、楽曲ごとに編曲家を使い分けており、主に田中ユウスケ、トオミヨウ、関口シンゴの3人のうちの誰かが、クレジットに名を連ねる。田中は、『マリーゴールド』『君はロックを聴かない』など、多くのシングル曲を手掛けており、20年に大ヒットした『裸の心』はトオミが担当した。
King Gnuと、millennium paradeのフロントマンを務める常田大希は、自身でクリエーティブチーム「PERIMETRON」も主宰。映像作家のOSRINをはじめ、3DCGクリエーター、アートデザイナーなどを擁し、前述の2組のMVやアートワークなどを制作する。MVに関しては、Mr.Children、DAOKO、アイナ・ジ・エンドなども手掛けている。
「歌い手×ボカロP」がヒット
さらに最近は、YOASOBIのボーカルikuraを筆頭に、yama、Adoといった、「歌い手」出身のアーティストたちのヒットが目立っている。歌い手とは、YouTubeやニコニコ動画などに自身が歌っている様子を投稿している人たちのこと。そんな彼らとタッグを組むケースが増えているクリエーターが、「ボカロP」だ。ボカロPもネットを中心に活動しているため親和性が高く、いち早く歌い手を見出し、ボーカルとして迎えたり、楽曲提供などを行っているのだ。
「ボカロP×歌い手」発のユニットで、20年の『紅白』にまで出場を果たしたYOASOBI。ikuraを見出し、作詞・作曲・編曲を担当するのがコンポーザーのAyaseだ。バンド活動を経て、18年からボカロ楽曲を作り始め、19年にYOASOBIを結成。メロディアスなピアノに乗せた展開の速い多彩なサウンドでヒット曲を連発し、『夜に駆ける』は20年のビルボード年間チャート1位に輝いた。LiSAとUruのコラボレーション曲『再会』のプロデュースなども行っている。
ストリーミングの累計再生数が1億回を突破する、yamaの『春を告げる』の楽曲を制作し、注目を集めるのがボカロPのくじら(記事「『春を告げる』の作り手、くじら ボカロPの曲作りは」参照)。ブラックミュージック感あふれるR&Bサウンドを得意としており、yamaやAdoをボーカルに起用した楽曲を19年の時点で既に発表していた。最近では、20年に『猫』がヒットしたDISH//の楽曲も手掛ける。
ボカロPのjohnのソロプロジェクト、TOOBOE(トーボエ)も話題の1人。yamaが20年10月にデビューして以降の『真っ白』『麻痺』などの楽曲制作を担当する。洋楽のエッセンスをJ‐POPに落とし込んだ楽曲が人気で、3月には、深夜バラエティ『お願い!ランキング』(テレビ朝日)にオープニング曲『おまつり』を提供。歌唱は、元乃木坂46の斎藤ちはるアナウンサーが務めた。
20年10月にリリースされ、芸能人もこぞってカバー動画を上げるほどのブームとなっているAdoの『うっせぇわ』。手掛けたのは、ボカロP出身の音楽プロデューサー・Syudouだ。ダークな世界観を武器にしたサウンドが人気で、6人組エンタメユニット、すとぷりのメンバー・ななもり。などにも楽曲提供を行っている。
また、ボカロPや歌い手たちは、MVにアニメーションやイラストを採用するケースが多い。それを制作する「絵師」と呼ばれるクリエーターたちも、近年の音楽界では見逃せない存在だ。YOASOBIの『夜に駆ける』のMVを制作した現役東京藝大生の藍にいなは、米津玄師の『カナリヤ』のMVにもアニメーション担当で参加する。
yamaのMVのイラストなどを手掛けるイラストレーター・ともわかは、アパレルブランドとコラボレーションしたり、個展を開催するほど人気となっている。
(ライター 中桐基善)
[日経エンタテインメント! 2021年5月号の記事を再構成]
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