店内の一角に据えられた米ローリング社の焙煎機。シェアサービスで焙煎する生豆は、有料で自分の豆も持ち込める

「以前は交流のなかった若手の焙煎業者と対話する機会が増えました。お互いに知識をシェアしたり、一緒に豆を焼いたり。僕も知っていることをどんどん伝える。彼らは哲学を持っているし、おいしさに対する感覚も多様。彼らがより良いコーヒーをつくるようになれば、業界が成長し、結果的に小川珈琲も恩恵を受ける。そこから新しい文化が生まれるかもしれない」

交流が増えればイノベーションの土壌が育つ

同サービス開始後、社内外での社員のコミュニケーションの量がぐっと増えたという。「交流が増えれば、革新につながるインスピレーションも湧いてくる」。そこから何が生まれるか、もちろん今はわからない。ただ、イノベーションの土壌が育ち始めた、という実感はある。

7月末に下北沢で開業予定の「LABORATORY」2号店の構想を聞けば、小川珈琲の思惑がより鮮明な像を結ぶ。

商業施設「reload」に開く小ぶりな店のコンセプトは「体験型ビーンズストア」。基本は豆売りだが、お客は店がそろえた様々な抽出器具やグラインダーを自由に使って、自分が買った豆を挽(ひ)き、コーヒーを自分で淹(い)れられる。焙煎機の体験使用も可能だ。自分の豆はボトルキープのように、店に取り置きできる。

「お客様は自分に合った器具を見つけられるし、ここで吸い上げた利用者の意見は器具メーカーにフィードバックする。メーカーはこの店を新製品のテストマーケティングやプロモーションにも使えます。ウチと、お客様と、メーカーの間でコミュニケーションが生まれ、新しい製品が生まれる。まさにオープンイノベーションが実現するわけです」

コーヒーを自宅でおいしく飲みたい、という人にとっては気になる業態で、都内に複数あってもおかしくない。ただ、この店に関しても事前の告知は控えめだ。

1952年に創業した小川珈琲は70年に直営喫茶店を開業し、以来、焙煎豆の販売と喫茶を両輪に成長してきた。

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「小川珈琲は基本的にマスマーケティングはしない。マーケットインの発想はないんです。自分たちだけで懸命に考え、作り上げた商品がお客様に受け入れられればいい、というプロダクトアウトの発想。自社の取り組みを声高にアピールするのも嫌いなんです」

宇田さんは、京都企業の多くは同様の思想を根底に持っている、と解説する。

「京都の特色は『伝統と革新』と言うけれど、京都の人は古き良きものを残そうと思ってモノ作りをしてきたわけじゃない。自分たちが良いと思って懸命に作ったものが、結果的に各時代のお客様に受け入れられ、後世に受け継がれてきただけです。自分たちもそうやって、新しいコーヒー文化を生み出していきたい」

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「カフェという存在は絶対に残る」
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