閉経前の乳がんリスク 酒1合以上で非飲酒者の2倍弱
日本人女性の乳がんのリスク上昇に、閉経前の飲酒頻度や1日あたりの飲酒量が関係することが、日本人女性約16万人を対象とする分析によって明らかになりました。閉経前に「適量」とされるアルコール量を上回る量を飲んでいた女性では、乳がんのリスクが2倍近くに上昇していました。
これまでに西欧で行われた複数の研究で、女性の飲酒と乳がんリスクの間に関係があることが示されていましたが、アジア人女性を対象とする検討は十分には行われていませんでした。西欧とアジアでは飲酒習慣に違いがあること、また、アジアにはお酒に弱い人が多い(飲酒後のアルコールの分解にかかわる酵素の遺伝的な違いによる)ことなどから、アジア人女性を対象とする分析が求められていました。
そこで、愛知県がんセンターなどの研究者たちは、日本で行われた大規模なコホート研究8件のデータを集めて解析し、女性の飲酒と乳がん発症リスクの関係を評価することにしました。
約16万人の日本人女性のデータを分析
対象としたのは、愛知県がんセンターや国立がん研究センターなどが実施した、8件の研究で収集されたデータです。これらの研究には、1980年代半ばから1990年代半ばに、それぞれ3万人を超える人々が登録されており、登録時点で質問票を用いて、飲酒習慣(飲酒の頻度と1日あたりの飲酒量)を含む食生活に関する情報を収集していました。ベースラインで既にがんと診断されていた人や飲酒習慣に関するデータが得られなかった人などを除く、15万8164人の女性を分析対象にしました。
対象となった15万8164人を平均14.0年、236万9252人-年(追跡した人数とそれぞれの年数の合計を掛け合わせたもの)追跡したところ、2208人が新たに乳がんと診断されていました。うち235人が閉経前の発症で、1934人が閉経後の発症でした。
登録時点の飲酒頻度に基づいて、対象者を「非飲酒者」(過去には飲酒したが現在は飲酒しない女性を含む)、「まれに飲酒する女性」(週に1日未満)、「ときどき飲酒する女性」(週に1日以上4日以下)、「ほぼ毎日飲酒する女性」(週に5日以上)に層別化しました。また、1日の飲酒量(エタノール換算)に基づいて、「飲酒なし」、「11.5g未満」、「11.5g以上23g未満」、「23g以上」の 4群に分けました。
なお、エタノール換算で23gというのは、日本酒なら1合(180mL)、ビールなら大瓶1本(633mL)、ワインならグラス2杯(240mL)、焼酎なら0.6合(25度、100mL)、ウイスキーならダブル1杯(60mL)程度に相当します。厚生労働省は、「節度ある適度な飲酒」の目安を1日平均20g程度としています。
閉経前の飲酒頻度や飲酒量が増えるほど、乳がんリスクは上昇
飲酒頻度に基づく分類では、全体の74.7%が非飲酒者で、10.0%がまれに飲酒する女性、10.3%がときどき飲酒する女性、5.1%がほぼ毎日飲酒する女性でした。閉経前の女性と閉経後の女性に分けて同様に分類したところ、閉経前の女性ではそれぞれ、66.0%、14.5%、13.5%、5.9%、閉経後の女性では79.1%、7.8%、8.7%、4.4%でした。飲酒量に基づく層別化では、1日あたりの飲酒量が23g以上だった女性は、閉経前の女性では3.7%、閉経後の女性では2.0%でした。
登録時点と乳がんの診断の時点で、閉経前だったか閉経後だったかに基づいて参加者を層別化し、年齢、居住地域、喫煙習慣、BMI(体格指数)、初経年齢、出産数、女性ホルモン薬の使用、余暇の運動習慣などの要因を考慮して、非飲酒者を参照とした場合の乳がん発症リスクを推定しました。
その結果、登録時点で閉経前だった女性では、登録時点の飲酒量や飲酒頻度と乳がん発症の間に有意な関係が見られました。非飲酒者と比較した場合、ほぼ毎日飲酒する女性の乳がんリスクは1.37倍で、飲酒量についても、1日23g以上の飲酒者のリスクは1.74倍でした。どちらの分析でも、飲酒頻度が増えるほど、または飲酒量が増えるほど、乳がんリスクは高くなる傾向が見られました。
続いて、乳がんの診断時点で閉経前だった女性の登録時点の飲酒量と乳がんのリスクについて分析したところ、非飲酒者と比較した1日23g以上の飲酒者の乳がんリスクは1.89倍になりました。一方、飲酒頻度との関係については、統計学的に有意な関係は認められませんでしたが、飲酒頻度が高いほど、リスクが上昇する傾向は認められました。
次に、登録時点で閉経後だった女性と、診断時点で閉経後だった女性を対象として同様に分析しましたが、それらの女性においては、飲酒習慣、飲酒量と乳がんの間に有意な関係は見られませんでした。
以上の結果から、飲酒頻度の高さや飲酒量の多さは、日本の閉経前の女性の乳がんリスクの上昇に関係することが示されました。閉経後の女性にはそうした関係が見られなかったことについて、著者らは、さらに大規模な研究を行って確認する必要があるとの考えを示しています。
論文は、2021年1月26日付のInternational Journal of Cancer誌オンライン版に掲載されています[注1]。
[注1]Iwase M, et al. Int J Cancer. 2021 Jun 1;148(11):2736-2747. Epub 2021 Feb 10.
[日経Gooday2021年6月16日付記事を再構成]
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
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