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気づくのは遅かったけれども……

「僕自身が自分のルックスときちんと向き合わなくてはいけないとの覚悟と責任を持ったのは、30歳を過ぎてからです。理由の1つは、単に『諦めた』から。デビュー以来、美醜で語られることが多いこの世界から早く抜け出したいと思っていました。さすがに30歳を過ぎたら、美醜で語られることはなくなるだろうと思っていたら、まだ続くんです。『じゃあ、もういいや』って。同時に、職業でルックスなども求められているのに対して、自分の中で反発心があったことを非常に悔いたんです。

みな(女性ラッパーのちゃんみな)に出会った影響も大きいかもしれません。彼女は音楽とか考え方、スタンスとかいろんな意味で、音楽性を毀損することが全くなく、パフォーマンスや表情、映りに対しての矜持(きょうじ)があってカッコいいと思っちゃったんです。ちゃんみなって、もちろん音楽を付けたほうが全然カッコいいけど、ミュートで見てもカッコいいんです。

それまで自分は視覚ではなく、聴覚に訴えることこそが自分のアーティストとしての矜持だと思っていて、視覚的な情報が入り過ぎることで、聴覚が毀損されることをずっと嫌っていた。でも、それって実は自分のクリエイションに対して、誠実じゃなかったんじゃないかと感じました。

ただ、その後悔や反省のなかで1つ言えるのは、早くからアイドルとしての自覚を持って活動していたら、自分が今こうしてここにいなかったということ。その経験が、今回の『THE FIRST』の育成にとても役立っています。もしかしたら自分が若いときからルックスの役割に自覚的だったら、この『THE FIRST』は生まれず、仮にオーディションプロジェクトをやったとしても、(埋もれた才能の発掘ではなく)表面的でキラキラしたものになっていたかもしれないし、ディレクションをするにしても視聴者に媚びて、みんなに喜ばれるものをテクニックとして披露していたかもしれない。

それはそれで、当事者同士が良ければいいんだろうけど、やっぱり今の自分が持っている『埋もれてしまう才能を救いたい』という方向性とは別で、才能を救おうとする人間にはなれなかったと思います。気づくのは遅かったのかもしれないけれども、結果、この未来にたどり着けたのだとしたら、自分としては良かったと思っています」

SKY-HI(日高光啓)
 1986年12月12日生まれ、千葉県出身。ラッパー、トラックメイカー、プロデューサーなど、幅広く活動する。2005年AAAのメンバーとしてデビュー。同時期からSKY-HIとしてソロ活動を開始。20年にBMSGを設立し、代表取締役CEOに就任。「THE FIRST」のテーマソング『To The First』が配信中。

(ライター 横田直子)