2021/7/7

安藤先生 そうですね。意識する必要があるのは、読む人の視点に立つということでしょうか。せっかくの機会ですので、より具体的にESを読む人の気持ちになってみましょう。どんな人がどんな環境で読んでいると思いますか?

蒼太 えーと、人事部の採用担当者が会社の会議室で、読んでいる……のかな?

安藤先生 そんな理想的な環境ではなく、もっと大変な状況を想定してください。そうですね、例えば入社10年目の33歳男性で、残業を終えてやっと帰れると思ったら、明日までにESを100枚読むように人事部から依頼されて、5段階評価を付ける必要がある。ちなみに個人情報保護の問題もあるので、ESを家に持って帰ることはできません。「さあ、これから読むか、早く帰りたいなあ」といった感じでしょうか。

蒼太 え、それは大変……。

エントリーシートはつまらない? 読む人の本音

安藤先生 そんなときにESを1枚1枚丁寧に読む気持ちにはなかなかなりません。1枚に1分しか時間をかけなくても1時間半以上かかるわけです。まずは全体の見た目として、読みやすいかどうかが評価に影響を与えてもおかしくありません。

蒼太 手書きの場合には、読みにくい字を解読してくれるなんて期待できないってことですね。

安藤先生 はい。それに、構成が明確であることも重要です。さきほど、南さんのESで「〇〇は3つあります」という書き方を良かった点としてあげました。細かい字でびっしり書いてあるよりも小見出しがあることや、使えるなら図や写真があることが効果的かもしれません。

蒼太 でもそんな状況だと適当に5段階評価をつけて提出してしまう可能性はありませんか? 例えば大学名で判断するとか。

安藤先生 こればかりは企業や担当者によって違うとしか言えません。しかし少なくとも真剣に応募するならESを丁寧に書くことは望ましい選択です。なぜなら、提出されたESをきちんと見る企業は案外多いからです。例えば製造業や金融機関では伝統的に書面を重視するようです。また、少なくとも面接まで進んだ場合には、面接担当者はESを必ず見てから、あるいは見ながら対応することになります。せっかく面接まで進んだのにESの内容が薄いことが理由で先に進めなかったらもったいないですね。

きちんと考えて書いた方がいい背景についてもう少し踏み込んで言うと、学生が書くESは、読んでいてつまらないケースが多いのです。

蒼太 つまらない……(少しショック)

安藤先生 一生懸命に考えて書いている皆さんからするとショックかもしれません。ですが、何十枚もESを読んでいる人から見ると、例えばサークルの副幹事長としてメンバーをまとめましたとか、アルバイトで評価されてバイトリーダーになりました、ボランティアでこんな活動をしました、などという話が何度も何度も出てきます。そうすると「ああ、またか。またこのパターンか」と正直思うわけです。

だからといって、バックパックでインドに行きましたなどと書いてあれば興味を持たれるかというと、そういうわけでもありません。数日間だけインドに旅行して人生観が変わるような薄っぺらい話も聞き飽きている。

蒼太 そうなると、何を書けばいいのか、ますますわからなくなってきました。さっき自己PRに高校時代とか過去のことを書くのは要注意って言ってましたよね?

僕の場合、大学1年生の頃は、大学生活に慣れることでいっぱいいっぱいだったし、2年生になるあたりでコロナ禍になってしまったんです。だから正直、大学時代の活動で自己PRに書けそうことって何もないんですけど……。

安藤先生 確かに、コロナ禍で具体的なエピソードがなかなか示しにくい状況ですよね。それでは、ちょっと角度を変えて別のことをやってみましょうか。仮に南さんがDリノベーションの採用担当者だとしましょう。今から採用する側にとって理想的なESを書いてみてください。「この人なら、ぜひ会ってみたい!」と会社側が感じるようなESです。

蒼太 えっ!? 会社にとって理想的なESですか? 僕じゃない別の人間のものを書くということですか?

安藤先生 そうです。架空の人物でいいんです。「これなら面接には確実に呼ばれる」と南さんが考える理想の自己PRと志望動機を書いてみてください。

蒼太 うーん、難しそうですが、持ち帰ってやってみます。今日はどうもありがとうございました。

(つづく)

安藤至大
 日本大学経済学部教授。2004年東京大学博士(経済学)。政策研究大学院大学助教授、日本大学大学院総合科学研究科准教授などを経て、18年より現職。専門は契約理論、労働経済学、法と経済学。厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会で公益代表委員などを務める。著書に「これだけは知っておきたい 働き方の教科書」(ちくま新書)など。
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