宇宙食になったアジの干物
この「まるとっと」誕生のきっかけについて、常務取締役の岸本智臣さんが語ってくれた。
「2009年に松山市の聖カタリナ大学の学生さんが高齢者介護施設を訪問した際、『昔のような尾頭付きのお魚が食べてみたい』という入所者から相談を受けたのがはじまりでした。魚の骨は取るのに時間がかかり、更に喉に刺さるリスクもあり、施設側でなかなか食事として出せなかったのです」。
そこで、愛媛県産業技術研究所がもつ「魚の骨を軟化する技術」を用いて、「骨まで食べられる干物」を製品化するプロジェクトが開始。日本人の魚離れを払拭したいと強く願う同社もこの企画に大いに賛同し、共に開発にのりだした。
幾多の困難を経て誕生した「まるとっと」は、常温で90日、冷蔵で180日もつ。また、骨まで食べられるので、生のアジと比較して約40倍、アジの干物と比較すると約20倍ものカルシウムを摂取できる特徴があるという。
一般ではインターネット販売のほか、東京都内では、新橋にある愛媛・香川のアンテナショップ「香川・愛媛せとうち旬彩館」で購入が可能である。
さらに驚くべきことに、干物は地上から宇宙空間にもはばたいていた! それが「まるとっと」に更なる改良を加えた商品、「スペースまるとっと」。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙日本食に、干物として初めて認証され、20年12月7日には物資用のロケットで宇宙に上がったのだという。
「宇宙食」に改良するきっかけとなったのは、会社訪問に来た男子高校生からの問いかけに岸本専務が語った、「小さい頃から憧れだったロケットで、まるとっとを宇宙に飛ばしたい」という夢だった。宇宙食としての認証を得るため、実験で使われたアジは年間1万匹。地上よりもはるかに速いスピードで骨量が減少するといわれる無重力の宇宙空間で、カルシウムに富むアジは宇宙飛行士の強い味方になっているはずだ。
パリのマルシェで出会ったアジを干物にしてみたことで初めて知った、干物の味わい深き世界。まさか宇宙にまで飛び立っていたとは! 日本への帰国がかなった際は、伝統食でありながら進化をし続ける干物に思いをはせ、「本場」でゆっくり味わいたいものだ。
(パリ在住ライター ユイじょり)