機械学習で決められた絶妙な価格

3つ目の理由は価格設定だ。2万9800円(税込み)と安くはないが、ブルーレイレコーダーよりは圧倒的に低価格で、nasneの販売を後押ししたといえる。バッファローはこの価格を決めるのに、人工知能(AI)の一種である機械学習を活用した。

バッファローは数多くの周辺機器を販売してきたメーカーなので価格決定のルールがありそうだが、実際には「2万円以上の製品については、適切な価格を決めるための知見がなく、これまでは担当者が勘と経験で決めていた」(中村氏)という。

また同社には、nasneのようなレコーダーの販売経験がなかった。新型nasneは、SIE版nasne(税込み2万4200円)よりも高機能なのは確かだが、長期的な利益を確保しつつ、市場に受け入れられる価格を決めるのは意外に難しい。再開発にかかったコストを何年で回収できるかなどを予想する必要があるからだ。

そこで同社がトライしたのが、機械学習による価格決定だ。バッファローは20年から、統計学やデータサイエンスを経営に取り入れることを目指し、社員を大学に派遣して学ばせるなどの施策をとってきた。その最初の実績づくりとしてnasneが選ばれた。

具体的には、東京大学系のコンサルティング会社である東京大学エコノミックコンサルティング(東京・文京)に依頼し、12年以降に発売された約3500の家電製品の価格推移や機能、販売実績などのデータを機械学習プログラムに読み込ませ、「最適な価格」を導き出そうとしたのだ。機械学習の精度向上のために、季節や販売店のセール情報、年ごとに起きた技術革新などのデータも加えていったため、「1回分析を回すと数時間は計算し続けるレベルの計算量になった」(バッファロー事業本部事業統括部の松崎真也部長)という。

こうして、最適な価格として2万9800円が導き出された。それと同時に「価格を数千円下げても販売台数はあまり増えない」といった内容の需要予測も出た。「販売台数を伸ばしたい営業は価格を安くしたがるなど、立場によって主張する価格は異なりがち。従来はその議論がなかなか収束しないことがあった。今回は、価格を上下させたときのシミュレーションも機械学習で提示されたので、スムーズに決められた。結果的に品薄を招いたので需要予測に改善の余地はあるが、機械学習が意思決定に有用だと分かったのは大きい」(中村氏)

現在、nasneはアマゾンでしか販売していないが、torne mobileがPlayStation5に対応する年末以降は、店頭販売も予定している。そこでは市場が価格を決めることになる。機械学習の「答え合わせ」が、年末のnasne利用者の話題になるかもしれない。

(日経トレンディ 大橋源一郎)

[日経クロストレンド 2021年6月15日の記事を再構成]

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