外観、機能ともにSIE版の完全継承を目指した

バッファロー事業本部コンシューママーケティング部の中村智仁部長は、「バッファローにもnasneの愛好家が数多くおり、『何とかバッファローでnasneを引き継げないのか』という声が出るようになった」と、当時の社内の状況を説明する。そこで同社は、nasneの後継機開発プランを携えて19年11月にSIEと交渉。nasne開発の継承の合意を取り付けることができた。バッファローで他社の事業を引き継ぐのは初めてだったという。

nasne後継機の開発に当たっては、「外観や操作感(ユーザーインターフェース)を含めて、全くそのまま継承する」(中村氏)ことを決めた。新しいnasneを購入するのは、旧nasneを使った人が大半になると考えたからだ。

元のSIE版nasneの部品は入手できないので、基幹部品や基板などの中身は全て新規開発となったが、それを従来とほぼ同じケースに収まるように設計した。同社にはLAN接続ハードディスクやテレビチューナーの開発経験があり、開発自体はそれほど困難でなかったという。

SIE版(左)とバッファロー版(右)のnasne。側面から見ると、メーカーロゴの他に違いはない(写真提供:SIE、バッファロー)
背面はUSB端子、LAN端子の位置などが異なる。左がSIE版、右がバッファロー版(写真提供:SIE、バッファロー)

こうしてできたバッファロー版nasneは、内蔵ハードディスクが1テラバイト(テラは1兆、TB)から2TBに、外付けできるハードディスクの容量は最大2TBから6TBまで増えた。また、スマホアプリ(torne mobile)利用時の視聴画質がSD画質(有効走査線数480p)からHD画質(同720p)に向上した。SIE版nasneの最終モデル(nasne CUHJ-15004)の発売から約5年たっているので、大幅な機能強化を図っても不思議ではないが、そこは「仕様を大幅に変更して、不具合が起きたり、動作が重くなったりすることは避けたかったので、機能向上は必要最低限にした」(中村氏)との理由で見送られている。

では、悪く言えば代わり映えしないnasneが、なぜこれほど売れたのか。そこには3つの理由が考えられる。1つ目は、バッファローがnasneを通常の製品よりも早めに発表し、事業継承を強く印象付けたことだ。他の周辺機器の場合は、発表から発売までの期間が1カ月もないのが普通だが、nasneは発売の半年前となる20年10月に発売を予告した。

同社事業本部販売企画室の志村太郎室長は、「既存の利用者に、SIEのnasneとほぼ同じ製品が戻ってくることを強調した。従来のnasneを使ったことがない人にも知ってもらうために期間を十分に取り、SIEからの継承を早めにアピールすることにした」と言う。旧nasne利用者の反響は大きく、Twitterではその日のトレンドで1位になった。

nasneの事業継承をアナウンスした、バッファロー公式アカウントのTwitter

2つ目の理由が、ライフスタイルの変化やコロナ禍で、スマホで動画を見るのが当たり前になったことだ。12年にnasneが登場したとき、動画配信のサービスはYouTube、ニコニコ動画、GYAO!など無料のものが多く、Huluなどの有料サービスは苦戦していた。しかし、15年にアマゾン・プライム・ビデオやNetflix、TVerなどが日本で始まってからは、スマホで動画を見る習慣が徐々に広がった。

また20年以降のコロナ禍で、家族が全員家にいるような機会が増えたことで、テレビのチャンネル争いが起きやすくなった。「2台目のテレビを買うほどではないが、好きなときにスマホでテレビを見られたら便利」と考える人が、いつの間にか増えていたというわけだ。また、スマホの画面も動画視聴を意識して大きくなった。例えば、11年10月発売の「iPhone 4S」は3.5型画面だが、最新の「iPhone 12」は6.1型と、面積比では2倍以上になっている。

番組名の横に「12356トル」などと表示され、nasne利用者のうち何人がその番組を録画しているのかが一目で分かる。左画面はスマホ用の「torne mobile」、右画面はPlayStation4用の「torne」。両者でできることはほぼ同じだ(画像提供:SIE)
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