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ソマリランドのラクダ飼い 異常気象で伝統消えゆく

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ナショナルジオグラフィック日本版

東アフリカの国ソマリア北部にある自治区ソマリランド。首都機能のある都市ハルゲイサから320キロほど離れた海岸沿いのヒジーンレ村は、人口200人ほどの小さな集落だ。村人は、集めた枝を組んで布をかぶせた小屋に住み、古来より受け継がれたラクダ飼いの伝統を守って、半遊牧の牧畜生活を営んでいる。

「ここでは、人間とラクダがお互いを理解しあっています」。2019年12月のある朝、ラクダ飼いのラシード・ジャーマクさんは、村の海岸でラクダの乳をしぼりながらそう話してくれた。自分でははっきりした年齢はわからないが、おそらく50歳くらいだろうというジャーマクさんは、そこにいた数百頭のラクダのうち52頭を所有している。ジャーマクさんの膝に挟んだ円すい形の容器に、しぼりたての乳がたまっていく。

厳しい環境に生きる村人は、ラクダ以外にもヤギ、ヒツジ、ウシを飼っているが、「ソマリ人が最も好きなのは、ラクダです」と、ジャーマクさんは言う。ラクダの乳は、昔からソマリ人の食卓に欠かせなかった。だが、その肉を食べるのは、自然死しようとしているラクダを殺したときだけだ。

昔から、人間とラクダは互いを必要とし、強い愛情で結ばれてきた。ジャーマクさんのラクダは、放牧から戻ってくるとジャーマクさんを認識し、まるでペットのように好意を示すという。

「もしラクダを飼っていなかったら、ソマリの文化は存在しません」

ところが今、そのソマリの人々とラクダの関係が、危機にさらされている。

ソマリランドがある「アフリカの角」と呼ばれる地域では、昔から周期的に干ばつが訪れていたが、ここ30年ほどは雨がほとんど降らない年が増え、災害から完全に復興する前に次の災害に襲われるという悪循環に陥っている。15年以降は毎年のように干ばつが発生し、家畜が大きな打撃を受けた。木や草は枯れ、村人たちはラクダの飲み水を求めて何日もさまよい歩く。どこかに水があるという噂を聞き、ラクダの群れを引き連れて行ってみたら、水は干上がっていたということもあった。数週間のうちに数百頭のラクダがバタバタと死んでいくのを、ただ手をこまねいてみているしかなかった。草むらにラクダの骨が点在する風景が、今では当たり前になっている。

干ばつのため、数十万ものソマリ人が域内避難民キャンプや、ハルゲイサなど大都市への移住を余儀なくされている。仕事を求めて域外へ出る人も多い。数は不明だが、ヨーロッパへ渡ろうとして人身売買のわなにはまる人々もいるという。

喜びと悲しみ

ソマリ人は、ラクダが何に喜ぶかを知っている。メガーグとクダークという木の葉を好んで食べ、ナツメヤシに似たクランという実を食べると、乳が甘くなるという。また、どんな時に悲しむかも知っている。オスは、交尾相手が見つからないと声を上げて泣き、メスは子どもを失うと泣く。どのラクダも、群れからはぐれるとパニックに陥り、喉を鳴らしながらオロオロと歩き回るのだ。

ジャーマクさんは、自分が所有するラクダの名をすべて覚えている。行儀が悪く、首に木製のベルをぶら下げたラクダ。やきもちやきで、けんかをしないよう足かせをはめられているオスなど。ラクダを大切にし、数を増やしたいと願うあまり、ソマリのラクダ飼いはオスとメスが交尾しそうになったら、手を添えて助けることもあるという。

50歳になったとき、ジャーマクさんはラクダを牧草地へ連れていくことをやめた。ラクダを襲うハイエナと戦うには、年を取りすぎたと感じたためだ。「ラクダたちは、ハイエナを見るとおしっこするのです」。ジャーマクさんの妻アダル・マハメドさんは、笑いながら言い添えた。ハイエナからラクダを守るために、ラクダ飼いはハイエナの巣を見つけては子を殺したり、懐中電灯の光を当てて目をくらましたり、銃でハイエナを撃つこともある。

「ラクダを見れば、私たちの生活すべてが見えます。ラクダたちが大丈夫なら、私たちの生活も大丈夫です」

気候変動による異常気象

最近の干ばつが示すように、気候変動はここに暮らす人々の環境を大きく変えようとしている。土地は、以前のようにラクダや他の家畜を支えることができなくなっている。

ヒジーンレのラクダは、こぶが小さくなり、乳が出なくなった。子ラクダはやせ細り、骨と皮ばかりになった。ハイエナが狙うヤマネコやヒヒ、ディクディクと呼ばれる小型のアンテロープも餓死しているため、おなかをすかせたハイエナは以前にもましてラクダを狙うようになっている。人道支援団体が村へやってきて食料のトウモロコシを配布すると、村人たちはそれをラクダにも分け与える。食べ物は常に不足している。食べることも飲むこともできないほど弱ったラクダは、ただ砂の上にじっと座って、息絶えるのを待つ。

深刻な干ばつを引き起こした異常気象は、18年にサイクロンをもたらした。ヒジーンレの人々にとっては、初めての経験だった。激しい風が吹き荒れるなか、村人は野外でひとかたまりになり、風に吹き飛ばされないよう互いに抱き合っていた。

嵐が過ぎると、住まいの小屋はなくなり、数百頭のラクダが海の波にさらわれたり、砂に埋もれたりして窒息死していた。サイクロンと干ばつのせいで、ジャーマクさんとマハメドさんは15頭のラクダを失ったが、それでもいいほうだという。飼っていた動物をほぼすべて失ってしまった村人もいたのだ。

ムダーとバルード

干ばつがここまで悪化する前は、この砂浜に「海が見えないほど」多くのラクダがいたと、ジャーマクさんは言う。

砂に枝を突き立てて作った円形の囲いの中に、薄い毛色をした2頭の子ラクダが入っていた。おなかには、まだへその緒をぶら下げている。マハメドさんが近づくと、子ラクダはその手に頭をこすりつけたり、マハメドさんのベールを引っ張ったりして歓迎した。マハメドさんは、2頭の毛皮をなでながら、優しく声をかける。子ラクダの名は、ムダーとバルードという。ムダーとは、マハメドさんによると「明るい色をした美しい」樹木の名前で、バルードには「たくましい」という意味があるという。

バルードの母親は、バルードを妊娠中に干ばつに襲われた。死を目前にしたラクダがよくやるように、落ち着かない様子でぐるぐると歩き回っていたという。マハメドさんは、病院まで2時間歩いてラクダのための食べ物を手に入れ、母親が元気を取り戻すまで世話をした。

バルードを出産後、母親はジャーマクさんとマハメドさんの家族の分まで、乳を出すようになった。

この先も干ばつはますます悪化し、村の人々はラクダをさらに失うのではと恐れている。国連の予測によると、21年もまた干ばつの年になりそうだ。ジャーマクさんは、もし所有しているラクダをすべて干ばつで失うようなことになったら、町へ出て仕事を探し、メスのラクダを2頭、オスを1頭手に入れるまで働くつもりだと話す。その後村へ戻り、群れを増やしたいという。

35頭のラクダを所有するマハムード・アリ・フシーンさん(36歳)は、別の未来を描いている。サイクロンに襲われて以来、これまでのような生活を続けることは無理であると気付き、子どもたちには別の道を歩んでほしいと考えるようになった。今は、長男を近くの町ルガヤにある学校へ通わせている。学問を身につければ、いつか外国で良い仕事を探せるだろうと願ってのことだ。

(文 AURORA ALMENDRAL、写真 NICHOLE SOBECKI、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年6月6日付]

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