
2021年4月のある夜の11時55分、シャヤール・ラワル氏は、バイクでインド、グジャラート州最大の都市アフマダーバードにある公立の新型コロナ指定病院に到着した。それからの24時間でラワル氏がやるべき仕事はただ一つ、霊安室に運ばれてくる遺体の数を数えることだった。
グジャラート地方の日刊紙ディビヤバスカルの記者であるラワル氏が、最初の1時間で数えた遺体は4人だった。嘆き悲しむ親族たちが運んでくる遺体の数は、次の1時間でさらに5人増えた。その数が100人に達したとき、ラワル氏は事の重大さを実感したという。
「政府が死者の数を隠しているのはわかっていましたが、これほどとは予想していませんでした」
公式には、この日アフマダーバードが記録した新型コロナ感染症による死者はわずか15人だった。ところが、ラワル氏が夜を徹して数えた遺体の数は112に達した。この数は市内のたった一つの病院で亡くなった人だけだ。
それからの数週間、ラワル氏の同僚たちは火葬場や埋葬所でも遺体を数え、州内各地区の死亡証明書も調べた。最終的には、グジャラート州における9週間の死者数は、公式に発表されている数字の10倍以上であることが判明した。
ディビヤバスカル紙に記事が掲載されると、州政府は数字の矛盾について、合併症を伴う死亡はコロナによる死亡としてカウントできない、死亡証明書が重複して発行されているといった、いくつもの理由をあげてみせた。
「そこには根本的かつ特有の課題があります」と語るのは、世界保健機関(WHO)でデータ分析を担当するサミラ・アスマ氏だ。たとえ裕福な国であっても、当局は不正確な診断やデータ追跡における異常など、コロナウイルスの真の影響力を曖昧にしうるさまざまな要因への対応に苦慮している。「そのため、わたしたちはこのパンデミック(世界的大流行)の全容を完全には把握できていません」
この1年は、世界に存在するさまざまな不平等を痛感させられた年でもあった。そうした不平等の一つが、素早く正確に死者数を把握するのに必要な情報源だ。WHOが19年に実施したアセスメントでは、世界の国々の約3分の2が、出生と死亡の数を記録するためのきちんとした市民登録および人口動態統計システムを持っていないことが判明している。
こうした格差が、新型コロナ感染症をめぐる状況に重大な影響をもたらしている。5月21日にWHOが発表した「世界保健統計報告」では、新型コロナウイルスに直接的・間接的に起因する死者数は300万人とされている。この数字は、各国が公式に報告してWHOが集計した数字より120万人多い。