2021/7/12

このほか、公衆衛生の専門家がさらに斬新なデータソースを見つけた例もある。シリアのダマスカスでは、世論の圧力により、20年7月25日から8月1日までの8日間限定で、あらゆる死因による死者数のデータが公開された。インペリアル・カレッジ・ロンドンのワトソン氏はこの情報を、新聞などの死亡記事をアップロードしているFacebookグループのデータと照合した。

ワトソン氏と同僚らが、このデータを用いて、20年2月から9月までのパンデミック期間全体の推定値を算出したところ、驚異的な数字が導き出された。20年9月2日の時点で、ダマスカスにおけるコロナによる死者のうち報告されたものはわずか1.25%であり、4380人以上の死者が公式の報告システムから抜け落ちていたという。

当初は、公式に報告された死者数が不正確であることを人々に納得させるのは難しかったと、ワトソン氏は言う。それでも、自分と同じように公のデータに疑問を持ち、よりよい推定値を得るためにさまざまな方法を試そうとしているほかの研究者たちとの間にはつながりを感じたと、氏は述べている。

政府には圧力を

こうしたクリエイティブな手法の利点を認める一方で、チェンナイのデータジャーナリスト、ルクミニ氏は、政府が最も正確なデータを公開する必要があると強調する。

「わたしが懸念しているのは、公式な統計の公開に向けた民主的な圧力が不足しているのではないかということです」とルクミニ氏は言う。

過去のパンデミックを研究している経済学者のチンマイ・トゥンベ氏は、政府の数字に頼るなら、実際の犠牲者数は、国勢調査のデータが入ってくる数年後までわからないと述べる。しかしそれでは、政府や企業、政策立案者が、パンデミックに対処するには遅すぎる。

本当の死者数を把握することは、最終的に、感染致命割合(全感染者のうちコロナによって死亡した人の割合、IFR)を割り出すうえで役立つ。この数値は、パンデミック初期において、もし公衆衛生上の制限が行われず、ウイルスが集団の中で自由に拡散した場合、どれだけ深刻な影響を及ぼすかを理解するうえで非常に重要だった。

「しかしながら、本当の死者数がわからなければ、正確に推測することは非常に困難です」とワトソン氏は言う。

だからこそ、研究者たちは、正確で素早いデータ収集を優先するよう、政府に圧力をかけ続ける必要があるのだと、トゥンべ氏は言う。

WHOは超過死亡の標準化を模索

国によっては、政府への圧力が功を奏したところもある。最近、ペルーでは公式の死者数が18万5380人に修正された。これは当初の数値である6万9342人のほぼ3倍だ。人口100万人あたりの死者数は5551人であり、ペルーの公式死亡率は現在、世界最悪レベルとなっている。

公式に発表されたものよりも多い死者数を国に受け入れさせることは容易ではないだろう。そのため、WHOには諮問特別委員会の助けを借りて立てた計画があると、アスマ氏は言う。21年11月までに、WHOは超過死亡数の算出方法を標準化し、どのようなデータを使用すべきかを決定し、すべての国の推計値を見直し、その後、各国政府の代表者と協議することを目指している。

「透明性のある方法で実施されるこの計画は、非常に重大なものとなります」とアスマ氏は言う。これにより、各国はWHOと協力して矛盾点を割り出し、最も正確な推定値を導き出すことができる。この対話によって、各国がパンデミックの真の影響について総意に達し、より良いデータを承認、発表できるようになると、氏は考えている。

「データが公共財であるならば、それはオープンでなければなりなせん。そして、それこそがお互いが説明責任を負うための唯一の方法なのです」

(文 AMRUTA BYATNAL、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年6月17日付]