朗報! 年齢とともに高まる脳機能もある
ややこしい作業をする前頭前野、記憶の引き出しとなる海馬、やる気のスイッチを入れる線条体。このような大切な機能が年齢とともにそろって機能低下していく、と聞くと悲しくなってくる。しかし、「年齢とともに高くなる脳機能があることもわかってきたのですよ」と篠原さん。
知能に関する研究分野では、生きていくときに必要な知能を、「流動性知性(記憶力など)」、「統括性知性(計画力、マネジメント力)」、「結晶性知性(知恵や知識、経験など)」の3つに分類するという。
●統括性知性 …… 企業でいえば社長や役員に求められる知性。現状把握、企画、意思決定などを担う。40代以降、伸びる人と低下する人に二極化する可能性が指摘されている
●結晶性知性 …… 知識や経験に裏打ちされる知能。経験の蓄積が結びつき結晶が出来上がるように伸びていく。年齢とともに伸びていくことがわかってきた
「結晶性知性こそ、年の功といえる脳機能でしょう。興味深いのは、40代、50代で統括性知性が育った人ほど結晶性知性の伸びが大きくなる、ということです」(篠原さん)
長年の知識や経験の蓄積によって伸びるものには「語彙力」もあるという。「約1000人を対象とした研究によると、語彙力は50代半ばまで上昇し続け、その後もほとんど低下しないことがわかりました(下グラフ)。脳の機能には、年齢を重ねるほど良くなる面もあるのです」(篠原さん)
語彙能力は50代半ばまで上昇し、その後も高く維持される

脳の老化を防ぎたい、と思うと文字や数字、形を覚えたり見分けたりする「脳トレ」をイメージするが、篠原さんは、「脳も体の一部ですから、脳のアンチエイジングを望むなら、全身の健康を意識する必要があります」と言う。
2019年に世界保健機関(WHO)は「認知機能低下および認知症のリスク低減のためのガイドライン」を公表している。
このガイドラインでは、認知症の発症や進行を遅らせることは可能、とし、世界で現状とりまとめられているエビデンスに基づいて「強く推奨するもの」を挙げている。それが、「運動」「禁煙」「高血圧や糖尿病のコントロール」「バランスのいい食事」などだ。「幸いなことに、体の健康を維持するための行動は、そのまま認知症予防にもつながるのです」(篠原さん)
運動や食事などの日常習慣が脳の健康のベースにあることを踏まえた上で、次回は、日常の中で脳機能を若返らせていくコツを教えてもらおう。
(ライター 柳本操、グラフ制作 増田真一)
[日経Gooday2021年6月22日付記事を再構成]
