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朗報! 年齢とともに高まる脳機能もある

ややこしい作業をする前頭前野、記憶の引き出しとなる海馬、やる気のスイッチを入れる線条体。このような大切な機能が年齢とともにそろって機能低下していく、と聞くと悲しくなってくる。しかし、「年齢とともに高くなる脳機能があることもわかってきたのですよ」と篠原さん。

知能に関する研究分野では、生きていくときに必要な知能を、「流動性知性(記憶力など)」、「統括性知性(計画力、マネジメント力)」、「結晶性知性(知恵や知識、経験など)」の3つに分類するという。

流動性知性 …… 流動性という名の通り、その場その場で何かを覚えて対処する能力のこと。いわゆる脳トレで鍛えようとするのがこの知性。18歳ごろをピークに低下

統括性知性 …… 企業でいえば社長や役員に求められる知性。現状把握、企画、意思決定などを担う。40代以降、伸びる人と低下する人に二極化する可能性が指摘されている

結晶性知性 …… 知識や経験に裏打ちされる知能。経験の蓄積が結びつき結晶が出来上がるように伸びていく。年齢とともに伸びていくことがわかってきた

「結晶性知性こそ、年の功といえる脳機能でしょう。興味深いのは、40代、50代で統括性知性が育った人ほど結晶性知性の伸びが大きくなる、ということです」(篠原さん)

長年の知識や経験の蓄積によって伸びるものには「語彙力」もあるという。「約1000人を対象とした研究によると、語彙力は50代半ばまで上昇し続け、その後もほとんど低下しないことがわかりました(下グラフ)。脳の機能には、年齢を重ねるほど良くなる面もあるのです」(篠原さん)

語彙能力は50代半ばまで上昇し、その後も高く維持される

健康な被験者を対象に「語彙」「処理速度」「推論」「記憶」に関わる4つの検査を行い、得点の年代差を検証した。語彙、処理速度、推論テストは成人1424人、記憶は成人997人のデータを基にした。流動性知性の指標となる「処理速度」「推論」「記憶」は加齢にともない低下したが、結晶性知性にあたる「語彙」は50代半ばまで上昇、その後もほとんど低下しないことがわかった。(データ:Psychological Science 2004; 13:4, 140-144.)

脳の老化を防ぎたい、と思うと文字や数字、形を覚えたり見分けたりする「脳トレ」をイメージするが、篠原さんは、「脳も体の一部ですから、脳のアンチエイジングを望むなら、全身の健康を意識する必要があります」と言う。

2019年に世界保健機関(WHO)は「認知機能低下および認知症のリスク低減のためのガイドライン」を公表している。

このガイドラインでは、認知症の発症や進行を遅らせることは可能、とし、世界で現状とりまとめられているエビデンスに基づいて「強く推奨するもの」を挙げている。それが、「運動」「禁煙」「高血圧や糖尿病のコントロール」「バランスのいい食事」などだ。「幸いなことに、体の健康を維持するための行動は、そのまま認知症予防にもつながるのです」(篠原さん)

運動や食事などの日常習慣が脳の健康のベースにあることを踏まえた上で、次回は、日常の中で脳機能を若返らせていくコツを教えてもらおう。

(ライター 柳本操、グラフ制作 増田真一)

[日経Gooday2021年6月22日付記事を再構成]

篠原菊紀さん
公立諏訪東京理科大学工学部情報応用工学科 教授。専門は脳科学、健康教育学、精神衛生学。遊ぶ、運動する、学習するといった日常の行動と脳活動の関連性を調べ、脳トレの教材開発やギャンブル障害の予防、脳リハビリなどの研究を手がける。

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