2021/7/7

乱用されがちな薬物とその理由

競馬界で最も論議を呼んでいる薬物のひとつがフロセミドだ。一般にはラシックスの名で知られる。人間の場合は、心不全、肝疾患、腎障害などがある患者の体液貯留を防ぐ目的で使用される。

米国のほとんどの競走馬では、これが肺出血を予防するという名目で、レース当日に投与されてきた。しかしフロセミドには利尿作用があるため、馬の体重を減らす効果もある。つまり、より速く走れるようになるのだ。

フロセミドを使用する調教師は、これを投与しないのは非人道的だと主張する。しかし反対者は、他のほとんどの国で、投与されていない馬が問題なくレースを行っていると指摘する。19年に、クラシック3冠が行われる競馬場を含む米国の主要競馬場の連合が、21年からレース当日のラシックス使用を禁止することで合意した。

そのほか問題となっているのは、痛みを軽減する薬だ。有名なところではベタメタゾンのような抗炎症性コルチコステロイド、非ステロイド剤のフェニルブタゾンなどがある。これらの鎮痛薬は、けがから回復中の馬には役立つものの、レース時の使用には危険が伴う。

「これらは必ずしも走りを向上させるのではなく、とにかく走らせるための薬だと思います」とロビンソン氏。けがをしていても、薬のおかげで走り続けられるからだ。

「傷があっても馬自身が感じなければ、本来できないはずの無理をしてしまい、その結果重篤な外傷を負ってしまう可能性があります」

最近の研究によれば、大きな骨折をする馬の90%に、元から骨疾患があるという。だからこそ、獣医が疾患の兆候に気づけることが重要だとスコレイ氏は強調する。

ところがコルチコステロイドは、これを妨げてしまう。「私たちはこのような薬物を禁止しようとしているのではありません。馬を守るために、使い方を規制しようと言っているのです」

国による規制が行われていない

米国には現在、国による競馬の規制機関が存在しない。各州の競馬委員会が独自のアンチドーピング規則を定め、薬物検査、調査から処罰まで、違反者の処分に関する独自の制度を整えている。

しかし20年12月に、連邦の競馬公正安全局を設立する法律が議会で可決された。この法律が施行される22年7月1日に、同機関によって規則、検査、執行などの国家規格が策定される。

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