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「研究室」に行ってみた。

自閉症だけでない、グレーゾーンの子にも対応を発達障害クリニック附属発達研究所所長 神尾陽子(5)

2021/6/28

「研究室」に行ってみた。

ナショナルジオグラフィック日本版

文筆家・川端裕人氏がナショナル ジオグラフィック日本版サイトで連載中の人気コラム「『研究室』に行ってみた。」。今回は「自閉症」について、発達障害クリニック附属発達研究所の所長で児童精神科医の神尾陽子さんに聞くシリーズを転載します。なかなかイメージしにくい「自閉症」について、神尾さんは科学的なエビデンスによってその実態を明らかにしてきました。治療のみならず支援の環境作りにも奔走してきた神尾さんの姿勢からは、より生きやすい社会になるように、という強い願いが伝わってきます。

◇  ◇  ◇

自閉スペクトラム症が、その名の通り、定型発達から非定型発達まで連続的な分布を示すことが分かったならば、素朴な疑問が湧いてくる。

ほんの少しスコアが低い(自閉症傾向が小さい)だけとか、診断に必要な要素が一つ足りないとかで、自閉スペクトラム症の診断を受けない子たちは、全く問題なくやっていけるのだろうか。今や分布の連続性が分かり、時間とともに症状の軽重や傾向も変わりうることが分かっているわけで、疑問がつきない。

神尾さんはこの、興味深い領域について語る前に、少し言葉をためた。

「ちょっと余談なんですけど、大人を対象にした普通の精神科医と子どもを相手にする児童精神科医は、ある面ですごい仲が悪かったんです。もちろん個別の誰先生と誰先生がという話ではなくて、関心の方向が違うんです。児童精神科医にとって、自閉症を含む発達障害は大きな問題ですが、一般の精神科はそれほど関心がなかったんですよね。むしろ統合失調症ですとか、昔から精神科医の関心の中心だった重度の精神病に関心が強くて、『大人の発達障害』が問題になってきた時に、あるシンポジウムに呼ばれて話したところ、『児童精神科医がさぼっているから、大人の発達障害が精神科に来たんじゃないか』とか言われてしまって(笑)」

大人の発達障害というのは、まさに、自閉スペクトラム症やADHDのような発達障害の症状を大人が持つ場合があって、注目が集まり始めた時から語られるようになった言葉だ。精神科医は、こういったものを児童精神科医の「怠慢」つまり、本来、子どもの頃に診断してくおくべきものを診断していなかったと捉えていたわけだ。

しかし、それは本当にそうなのだろうか、というのが神尾さんの問いである。

「私たち児童精神科医が診ているのは、子どものときに診断がつく人です。その後ずっと大人になるまでは診るわけですが、大人になって初めてっていう人はほとんど会う機会がないんです。精神科医から紹介されたら診ることはありますが、それも、子どものときのデータがないのだから、子どもの頃に児童精神科医が診ていたとしても、診断がついたかどうかも分からないわけです。発達障害という同じ診断名でも、精神科医と児童精神科医が、同じものを見ているかどうか分かりませんよね」

つまり、神尾さんが疑っているのは、大人の発達障害と呼ばれるような人たちのすべてとはいわずともかなりの程度は、子どもの時には診断がつかない「診断閾下(いきか)」(サブクリニカル)のグループだったかもしれないということだ。

「児童精神科が関わる範囲でも、乳幼児健診のときには診断閾下でも、結局後で問題になるケースがいっぱいあります。ちっちゃいときにあんまりはっきりしなくて、学校に上がって不適応で不登校になったり、うつ状態になったり、それでクリニックに来て分かるケースが大きくかかわっているんですけど、そういう子たちって乳幼児健診のときには、閾下でフォローもされていないんですよ」

もちろんこれは、神尾さんがたまたま幅広くいろんな事例に触れているから分かったというわけではなくて、エビデンスに基づいている。とはいえ、ここではまず、診断閾下のお子さんがどんな苦労をすることがあるのか、エピソード的に聞いた。

「もちろんいろいろなケースがあります。例えば、幼稚園に行き渋るお子さんに困っていらして、極端な緊張症だというんですが、健診や幼稚園では『発達には問題ない』『お母さんが気にしすぎですよ』と言われるだけだそうです。だけど、たまたま、ご家族が本当によくお子さんを見てらして、エピソードを聞いたら、やっぱり定型発達ではないし、でも、頭はよさそうだというのが分かりました。とにかく幼稚園は行かないし、家では時々お父さんと大げんかするって言うんですよ。お父さんも必死になって理屈を言うわが子に言い返したりとかして、もう、うんざりってお母さんは言って。それで、何回か来てもらううちに、やっぱり強いこだわりが確認できて、自閉症とはいえないけれども、自閉症的な特性はあるねとはっきりしてきました。そこで特性にあわせた関わり方を親が身につけるペアレントトレーニングのプログラムをここで実施して、すごくよくなったんですよ」

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