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「研究室」に行ってみた。

「自閉症」の特性は誰にでも 研究でみえたエビデンス発達障害クリニック附属発達研究所所長 神尾陽子(4)

2021/6/24

「研究室」に行ってみた。

ナショナルジオグラフィック日本版

文筆家・川端裕人氏がナショナル ジオグラフィック日本版サイトで連載中の人気コラム「『研究室』に行ってみた。」。今回は「自閉症」について、発達障害クリニック附属発達研究所の所長で児童精神科医の神尾陽子さんに聞くシリーズを転載します。なかなかイメージしにくい「自閉症」について、神尾さんは科学的なエビデンスによってその実態を明らかにしてきました。治療のみならず支援の環境作りにも奔走してきた神尾さんの姿勢からは、より生きやすい社会になるように、という強い願いが伝わってきます。

◇  ◇  ◇

なにか病気なり、障害なりの対策をしようとする時に、まず必要なのは現状把握だ。

現在、治療や支援や配慮を必要としている人がどの程度いるのかを知りたい。そういった頻度を見ることは、疫学研究の第一歩である。

「先の九州での研究は、コホート研究としては結果を出せなかったんですが、1歳半のときの自閉症スクリーニング(選別)の精度がどうかは示せました。私たちは実際の健診に来た人を1歳半でスクリーニングして、6歳まで追いかけて、実際に自閉症を発症したか、そうではなかったか見ていって、スクリーニングの性能として感度や特異度という指標を割り出しました。それで、陽性反応的中度は、それまでの報告よりも少し低いことも分かりましたし、長期追跡した研究はおそらく世界で初めてだったので、研究室だけで実施した結果と、実際に地域で実施した結果は異なるということも示せました」

検査にまつわる指標はとても大事なことで、感度(病気の人を取りこぼしなく陽性に判定する割合)や特異度(健康な人を間違いなく健康と判断する割合)といった検査そのものが持つ固有の特性値に加えて、検査をする集団の中でその病気や障害の頻度によっても陽性反応的中度(陽性だった人が本当に陽性である割合)が変わってくる。自閉症のスクリーニングがどの程度の性能で(感度と特異度)、リアルワールドでどれだけの精度が出るか(陽性反応的中度など)を知ることは、自らもっている道具の基本性能として知っておかなければならない情報だ。新しい分野の疫学調査をするためには、まず道具を整える必要があるのはよくある話で、神尾さんはこの時点でまさに道具の整備を行っていたことになる。

「でも、国内では全然、評価されなかったんですよ。『だから何なんだ』みたいな感じだったんですけど(笑)。でも、結局、私たちがそこですごく自信がついたのは、こういったテストが、ある程度、客観的な尺度になると分かったことです。そして、スコアが高く自閉症傾向が強い人から、スコアが低く定型的な発達をしている人まで、切れ目なくつながっているようだというのも分かりました。それをどれくらいのところで切っているかによって、診断される数も変わりますよね」

この頃、自閉症と診断される人が増えていることが話題になっていた。結論としては、診断基準が変わり、見かけ上、増えたというのが確からしいのだが、予防接種のワクチンが原因になっているなど、今では明確に否定されている薬害説も取り沙汰され、自閉症をめぐる社会状況が騒然としていた時代でもあった。

しかし、「なぜ増えたか」についてはすでに決着がついた感があり、本稿では蒸し返さない。それよりも、むしろこの時点でも見て取れる「連続性」に注目したい(よりきちんとした研究については後に触れる)。「スコアが高く自閉症傾向が強い人から、スコアが低く定型的な発達をしている人まで、切れ目なくつながっている」というのは、そのクリニックの中にいてすでに困った状態で訪ねてくる人たちを見るだけでは、決して見えてこないことだ。きちんとした尺度を作った上で健康診断の場で網羅的に見たからこそ分かったことなのである。

「私自身のスタートは臨床医ですから痛感するんですが、臨床医が陥りやすい罠があって、それって、みんな自分が見たものをめちゃくちゃ信用することから始まっているんです。でも、実際は臨床医の経験はバイアスがかかりまくりです。やはりクリニックにやって来る人たちから得る経験は、リアルワールドで出会う人たちとは違うんですよ。京都では行政と一緒に施設を巡回したり、今で言う特別支援学校の学校医を長く勤めていたこともありました。すると、(診断がつきそうだが)クリニックに来ない人たちに出会うわけですね。あと、九州大学で1歳半の子を見続けた経験と合わせて、私はもう、目からうろこっていうか、臨床では出会えなかった人たちのことを知るのが本当に楽しくて。やっぱり公衆衛生的な視点っていうのは大切だなというふうに思うようになりました」

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