「歌でも小説でも、創作物って、どうしても“夢に向かって頑張ろう”系になりがちなんですよ。そのほうが作りやすいから。物語の構造の“王道”ですよね。でも、現実でまで、『みんなで力を合わせて盛り上がっていこう!』みたいなのが、私ホントに嫌で(笑)。『知らんがな』という気持ちが、どうしても捨て難い。『怖い』とも思うんです。『夢はなんですか? それに向かってどう努力していますか?』って詰め寄るの、ホントやめてほしい(笑)。それだけがすべてじゃないだろう、って気がずっとしているんですよね」

箱根駅伝をテーマにした『風が強く吹いている』では王道パターンで書き切った。それは「自分史上最高にうまくいった」。だからこそ、同じようなものを描こうとは「絶っっっ対に思わない」。

「パターンに乗っからないで、そこからなんとかずらして、楽しく読んでもらえるものを書いていきたい。王道“じゃない”物語のありようって、絶対あるはずなんですよね。そういうことを、毎回ちまちまと考えては、こうして、ああしてと、機会があるごとに試しています。自己満足かもしれないし、担当編集の方にとっては、『予想と違うものが焼き上がった! オーブン壊れてるんじゃないの!?』ってこともあるかもしれませんが(笑)、デビュー作からずっと、チャレンジを繰り返しています」

こうして、「湯の街=エレジー」じゃない物語は生まれた。これまでも、今回も、これからも、小説家・三浦しをんは、読者を「絶っっっ対に」楽しませてくれるのだ。

『エレジーは流れない』
 海と山に囲まれた餅湯温泉。商店街にある小さな土産物屋の息子、高校2年生の穂積怜は、家庭の事情や進路選択に悩まされながらも、自由奔放な友人たちとぬる目の楽しい日々を過ごしている。隣町との対立、博物館からの縄文式土器の盗難、友人が妙な理由で指を骨折、など、微笑ましい事件が次々と起こるなかで、明らかになっていく怜の出生の秘密……。笑いながら楽しく読んでいたらうっかり泣かされてしまう、三浦文学の新たな名作(長編小説/双葉社/1650円)

(ライター 剣持亜弥)

[日経エンタテインメント! 2021年6月号の記事を再構成]