三浦しをん デビューからずっとチャレンジを繰り返す

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おはだ~、もっちもっち、もちゆ~。『風が強く吹いている』や『舟を編む』などで知られる人気作家・三浦しをんの最新作は、「妙に明るい男女混声と、間延びしたテンポ」のテーマソングが流れる「餅湯温泉駅前商店街」が舞台。主人公は県立餅湯高校2年、穂積怜。土産物屋を営む母親と2人暮らしで、干物店の息子と、喫茶店の息子は気心の知れた幼なじみ。住宅街育ちの野生児と、旅館の跡取り息子も加わり、わちゃわちゃした日々が描かれていく。

1976年、東京都生まれ。2000年、『格闘する者に○』でデビュー。06年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、12年『舟を編む』で本屋大賞、15年『あの家に暮らす四人の女』で織田作之助賞を受賞。ほかに『ロマンス小説の七日間』『光』など。書評やエッセーも人気。 (C)双葉社

「商店街を舞台にした明るい話を、ということで始まった連載でした。それなら温泉街はどうかな、と考え始めて、温泉……美肌の湯……モチモチ……餅湯! と思いつき、よし、いけると(笑)。私はたいてい、架空の街を設定するとき、地図を描いてみるんです。今回も、“山側と海側で街の景色が違うような温泉地”で、“一見さんも来るそれなりの規模の街”、だとしたら“がっかり名所”は必要でしょ、と、ノートを前に手を動かしながらイメージを固めていきました。そこがどんな場所か、は、登場人物の習性や習慣にも関わってくることなので、大切にしています」

顔なじみに囲まれた、ぬるくて、緩慢な町。「まあこんなもんだろう」と思いながら日々を過ごす怜はしかし、とある複雑な家庭の事情に悩んでもいる。そのことが怜という人間の根っこを支え、同時に、悶々とさせるわけだが、だからと言って「訳ありの少年が周囲の愛情に育まれて思春期の葛藤を乗り越える」みたいなことでまとめられる話でもないところが、三浦しをんワールドの魅力なのである。

王道“じゃない”物語を

「今回は、怜だけでなく、彼の周りにいる1人ひとりについて、『いったいどういう人なのかな』と、すごく考えて書きました。些細な日常のエピソードや、その時に生じたちょっとした気持ちも想像し、それを、怜の視点を通して感じられるようにと」

身内や仲間はもちろん、ほんの少し登場するだけの近所のおじちゃんおばちゃん、学校の先生まで、その人となりが目に浮かぶ。すべての人にそれぞれの人生があって、それが交錯しながら日常が紡がれていくことが、愛しくてたまらない。

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