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「首切り王子」開幕 今、新作を創る尊さ(井上芳雄)

第95回

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NIKKEI STYLE

日経エンタテインメント!

井上芳雄です。6月15日にPARCO劇場で新作のストレートプレイ(セリフだけの演劇)『首切り王子と愚かな女』が開幕しました。僕にとって久しぶりのプリンス役は、愛される王子ではなく、自分勝手で傍若無人、反乱分子を次々と処刑して「首切り王子」と恐れられている嫌われ者の王子です。作・演出の蓬莱竜太さんらしい、心に深く刺さる作品で、演じていても感情が大きく揺さぶられて、自然と涙が出てきます。新型コロナウイルス禍で舞台を創るのがまだまだ困難な今の時期に、これだけの新作をゼロから創り上げたのがまず尊いことだし、だからこそ多くの人に見てほしいと願っています。

蓬莱さんとの出会いは、やはりPARCO劇場で2009年と11年に上演された『Triangle』シリーズ。蓬莱さんが脚本、宮田慶子さんが演出のミュージカル仕立ての新作でした。15年にPARCO劇場の『正しい教室』で初めて作・演出の新作に出て、今回が2回目です。蓬莱さんは今年45歳で、僕は42歳になるので、年齢がちょっと上くらい。それまでは演出家というとすごく年上の方で、教えを授かるという感覚だったのですが、蓬莱さんは部活の先輩みたいな感じです。いろいろ話せたり飲んだりできる同世代の演出家は、初めての存在でした。なによりも書くものが面白くて、また組みたいと言い続けて、6年ぶりにご一緒することができました。

蓬莱さんは劇団モダンスイマーズを旗揚げ、作・演出を手がけて脚光を浴び、近年は映画の脚本や配信ムービーで初監督など表現の場を広げています。人間関係の細かい感情を突きながら、みんなが見て見ぬふりをしてきたことや、自覚していなかった感情を明らかにしていくような作風が特徴です。今回は初めてのファンタジーで、時代も場所も架空の王国を舞台にした壮大な設定なのですが、そこにいる人間たちの感情は生々しく、笑いやスペクタクルの要素もありつつ、やっぱり見ていて痛くなるような話になっています。

 舞台は雪深い王国。僕が演じる「首切り王子」ことトルには、病床に伏す兄王子のナルがいます。ナルは国や民を思う正統派の王子なのですが、弟のトルは"呪われた子"として親からも国からも見捨てられた存在でした。小さいときに離島に送られて、従者と2人きりで育ち、大きくなってから、ナルが病に倒れたために、反乱分子を鎮圧するために城に呼び戻されます。反乱分子の首を次々と斬るのも、母親に認められたかったり愛されたかったりするためで、深い孤独や葛藤を内面に抱えています。彼の前に、伊藤沙莉さんが演じる「愚かな女」ことヴィリが現れて、召使いとなります。ヴィリもまた別の形で人生に絶望して、死のうとしていました。生きている意味を見いだせなかった2人が出会うことで、彼らと周りの人たちの運命が大きく変わっていくという話です。

蓬莱さんの演出は、人の心をのぞき見するようなリアルなお芝居を求められることが多いので、大規模なミュージカルで大きなお芝居をすることが多い僕としては、演技のスタイルが正反対なところがあります。蓬莱さんと組むときは、普段やったことがないような細かい心情の積み重ねや表現にトライできるのがチャレンジです。蓬莱さんがよく言われるのが、「もともとは自分が書いて創り出した話だけど、役者が演じることで自分の想像や発想を超えるものが生まれる瞬間が好きだし、それを待っているんだ」と。

みんなでお芝居や物語を紡いで、育てていく楽しさ

稽古の本読みのとき、こんなことがありました。首切り王子が自分の剣をなくして、誰かに盗まれたと思い込んで、大騒ぎする場面があります。すごく面白いシーンなので、僕はコミカルな感じを強調するように読んでみて、周りの人も笑ってくれていたと思います。そしたら蓬莱さんは「愚かなシーンだけど、愚かなふうに演じないで真剣に怒ってほしい。周りの人も下手なことをしたら、自分も首を斬られるかもしれないという緊張感の中でやってほしい」と言われました。それで方向性が分かったのですが、そんなやりとりを重ねるうちに、ただ怒っているシーンでも、涙が止まらなくなりながら「殺すぞ」と叫ぶような表現が、どんどん自分の中で湧き上がってきて、それを蓬莱さんは受け入れてくれます。ほかの役者さんも同じで、だから蓬莱さんが言った通り、作品の世界がどんどん大きくなっていくのを、稽古のたびに感じました。出来上がってみると、こんなにも感情が揺さぶられる話なんだと驚いたし、こんなにも悲しくなるんだと演じるたびに感じます。

そうやって、みんなでお芝居や物語を紡いで、育てていくのがとても楽しい稽古でした。ストーリーはシリアスで、周りの人に「メンタル、大丈夫?」と心配されるほどきつい役柄なのですが、お芝居をすることが面白くて、自分でもすごく楽しめていました。

 蓬莱さんは、コロナ禍で上演中止や延期が続き、舞台を創ったのは1年ぶりだそうです。「こんな状況でも、芝居を創るのが面白いのは変わらないね」と言われたので、僕もうれしかった。以前とは勝手が違うので、戸惑いもあったと思います。蓬莱さんは稽古や本番の後、よく飲みます。前回の『正しい教室』では毎日のように飲んでいて、そこで役の大事な話をしたりしました。そうやって役者との距離を縮めていたのだろうし、芝居作りはそういうものだという思いもあるでしょう。でも、今は飲めないです。稽古場では、マスクで目しか見えず、顔の下半分は分かりません。舞台に上がって初めてマスクを外したのですが、蓬莱さんも「みんなの顔に最初は慣れなかった」と笑っていました。飲めない、見えないでは演出もやりにくかったでしょうが、「それでも楽しいな、演劇って」と言われました。僕もそう思うし、その楽しさがお客さまに伝わっていればうれしい限りです。

お客さまの想像力にすべてを委ねる舞台

舞台装置は実にシンプル。小さな四角い箱が集まってできた島のような装置がいくつかあって、俳優自身がそれを動かして組み合わせて、いろんなシーンに見立てます。舞台の周りには、見える楽屋があって、役者は出番が終わったら楽屋に戻り、座って次の出番を待ちます。ちょっと見たことのないようなセットです。お客さまの想像力にすべてを委ねるような舞台で、演劇の力を信じて創っています。

蓬莱さんとの作品をプロデュースしてくれているPARCO劇場は、02年に僕が初めて出たストレートプレイ『バタフライはフリー』を上演した劇場で、それ以来、お芝居の多くのことを学ばせてもらっています。昨年新しくなって、客席がひとまわり大きくなったのですが、舞台との距離感はあまり変わらなくて、お客さまが近くに感じられます。舞台面が低いので、お客さまと目線が合いやすいというか、のぞき見されているような感じがあって、リアルなお芝居を伝えるのにはぴったりな劇場です。『首切り王子と愚かな女』を劇場の新しいページにしっかり刻みつけたいですね。

演劇界もまだ状況が落ち着かなくて、そのなかで新作を上演するのは大変なことだと思います。お客さまにしても、興味を持ってくださっていても、何でも見に行ける状況ではないから、有名なタイトルの新作や再演を重ねて面白さが保証されている作品を見たいという気持ちもよく分かります。でも、だからこそ見に来てほしい。今、新しいものをゼロから創るのには普段よりもずっと大きなエネルギーが必要です。その分、いろんな思いが詰まっています。それをぜひ劇場で味わっていただきたいと願っています。

『夢をかける』 井上芳雄・著
 ミュージカルを中心に様々な舞台で活躍する一方、歌手やドラマなど多岐にわたるジャンルで活動する井上芳雄のデビュー20周年記念出版。NIKKEI STYLEエンタメ!チャンネルで月2回連載中の「井上芳雄 エンタメ通信」を初めて単行本化。2017年7月から2020年11月まで約3年半のコラムを「ショー・マスト・ゴー・オン」「ミュージカル」「ストレートプレイ」「歌手」「新ジャンル」「レジェンド」というテーマ別に再構成して、書き下ろしを加えました。特に2020年は、コロナ禍で演劇界は大きな打撃を受けました。その逆境のなかでデビュー20周年イヤーを迎えた井上が、何を思い、どんな日々を送り、未来に何を残そうとしているのか。明日への希望や勇気が詰まった1冊です。
(日経BP/2970円・税込み)
井上芳雄
 1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP)、『夢をかける』(日経BP)。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第96回は7月3日(土)の予定です。

夢をかける

著者 : 井上芳雄
出版 : 日経BP
価格 : 2,970 円(税込み)

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