「首切り王子」開幕 今、新作を創る尊さ(井上芳雄)第95回

日経エンタテインメント!

井上芳雄です。6月15日にPARCO劇場で新作のストレートプレイ(セリフだけの演劇)『首切り王子と愚かな女』が開幕しました。僕にとって久しぶりのプリンス役は、愛される王子ではなく、自分勝手で傍若無人、反乱分子を次々と処刑して「首切り王子」と恐れられている嫌われ者の王子です。作・演出の蓬莱竜太さんらしい、心に深く刺さる作品で、演じていても感情が大きく揺さぶられて、自然と涙が出てきます。新型コロナウイルス禍で舞台を創るのがまだまだ困難な今の時期に、これだけの新作をゼロから創り上げたのがまず尊いことだし、だからこそ多くの人に見てほしいと願っています。

『首切り王子と愚かな女』(7月4日までPARCO劇場にて上演中。7月10~11日大阪、13日広島、16~17日福岡で公演) 首切り王子トル役の井上芳雄(撮影:加藤幸広)

蓬莱さんとの出会いは、やはりPARCO劇場で2009年と11年に上演された『Triangle』シリーズ。蓬莱さんが脚本、宮田慶子さんが演出のミュージカル仕立ての新作でした。15年にPARCO劇場の『正しい教室』で初めて作・演出の新作に出て、今回が2回目です。蓬莱さんは今年45歳で、僕は42歳になるので、年齢がちょっと上くらい。それまでは演出家というとすごく年上の方で、教えを授かるという感覚だったのですが、蓬莱さんは部活の先輩みたいな感じです。いろいろ話せたり飲んだりできる同世代の演出家は、初めての存在でした。なによりも書くものが面白くて、また組みたいと言い続けて、6年ぶりにご一緒することができました。

蓬莱さんは劇団モダンスイマーズを旗揚げ、作・演出を手がけて脚光を浴び、近年は映画の脚本や配信ムービーで初監督など表現の場を広げています。人間関係の細かい感情を突きながら、みんなが見て見ぬふりをしてきたことや、自覚していなかった感情を明らかにしていくような作風が特徴です。今回は初めてのファンタジーで、時代も場所も架空の王国を舞台にした壮大な設定なのですが、そこにいる人間たちの感情は生々しく、笑いやスペクタクルの要素もありつつ、やっぱり見ていて痛くなるような話になっています。

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