高速道料金に変動制導入 五輪で試行、渋滞緩和なるか
高速道路の渋滞を緩和するため、料金を変えることで交通量を調節する仕組みの検討が進んでいます。国土交通省は東京五輪・パラリンピックの期間中、東京都内の首都高速道路で試行し、効果を踏まえて大都市圏で段階的に広げる方針です。
五輪の選手や関係者は主にバスで移動します。時間通りに動けるよう、都内の首都高は午前6時~午後10時に料金を1000円上乗せして交通量を抑えることにしました。逆に午前0~4時は半額にします。
1000円上乗せの対象は、首都高で交通量の48%を占めるマイカーです。トラックやタクシーは業務に配慮して上乗せされません。夜間半額はすべての車両に適用されます。
上乗せは2000円でないと効果が十分でないとの見方もありましたが、道路政策に詳しい専修大学の太田和博教授は「コロナ禍で交通量が減り、結果として1000円でも定時性の確保に資する」とみています。
料金で混雑を調整する仕組みは各国にあります。英国のロンドンは平日の日中、中心部に入る車両に1700円余り課金しています。コロナ下では移動を抑えるため金額を引き上げ、土日や夜間にも広げました。
シンガポールでは都心に課金ポイントを設け、平均時速が45~65キロメートルになるよう0~500円ほど課金しています。コロナ下では交通量が減り、課金なしの時期もありました。
国交省は五輪での試行を踏まえ、変動料金制を導入する予定です。まず休日に渋滞する東京湾アクアラインや中央自動車道の小仏トンネルなどの区間で、曜日や時間帯を決めて割増料金の導入を検討します。
次の段階では複数のルートがある区間で混雑する方の料金を上乗せします。東名高速道路から東北自動車道に抜ける場合、都心経由の料金を上げ、圏央道などへの迂回を促す形です。将来は混雑に応じて料金を変える弾力的な制度を考えます。
同じ公共料金でも鉄道はコストで決め、高速道路は需要で決めています。混雑している道路は需要が多いといえるので、高い料金に設定するのは理にかなっているといえます。
ただ高い料金でも混雑区間を使わざるを得ない人には不満もあるでしょう。太田教授は「割り増し分で混雑区間の車線を増やすなど、混雑対策への還元を考えるべきだ」としています。
交通政策の基本は移動コストを下げることです。高速道路は2065年以降、無料にすることになっていますが、維持費などを賄うため永久に有料とすべきだとの意見もあります。五輪を機会に高速道路料金の議論が深まることが期待されます。
太田和博・専修大教授「料金制度の議論深める機会に」
高速道路料金のあり方をどう考えたらよいか。道路政策に詳しい専修大学の太田和博教授に聞きました。
――東京五輪・パラリンピックの期間中、首都高速道路は料金を日中に1000円上げ、深夜・未明に値下げします。効果はありそうですか。
「選手や関係者の移送で定時性を確保するため、料金を上げて交通量を減らすのは合理的だ。割り増し分は2000円でないと十分な効果が出ないとのシミュレーションもあったようだが、コロナ禍で交通量が減り、結果として1000円でも定時性の確保に資すると思う」
――五輪をきっかけに混雑に応じて料金を弾力的にする動きは広がりますか。
「料金のつけ方、より一般的には価格、値段のつけ方は2種類ある。一つは鉄道運賃のように、コストに基づき採算が合う金額にする考え方だ。もう一つは需要、受益に応じて値段をつける考え方で、需要曲線に基づいて高い値段を払っても受益を求める人にはたくさん払ってもらう。高速道路料金はこれを基本にする」
「混雑は需要が多い状態だ。高速道路で遠くに行く人は一般道の混雑を避けようとする時間帯が長くなり、高速道路の利用による受益が大きい。そのため混雑時に料金を上げても乗り続ける。一方、短距離の人はすいているときに料金が下がると乗るようになる。混雑に応じて料金を上げ下げすると、全体として走行台数が増える。これは道路資産が有効活用されることになり、社会的に良いことといえる」
「全体の走行台数が増えると料金収入も増えることになるが、高速道路会社は営利企業ではない。料金は建設時の借金の返済に充てる分だけ取り、収入は一定にすることになっている。このため走行台数が増えれば平均単価は下がる。混雑はほかに悪影響を及ぼす外部不経済効果があり、混雑時の課金はこれをコントロールする意味もある。これらを全体として考えれば、混雑時の料金を上げ、すいているときは下げるようにすべきだいうことになる」
――弾力的な料金によって平均単価が下がることは値下げの余地が出てくるといえます。利用者にとっても良いことではないですか。
「問題は『混雑しているときに高い料金を払え』ということが社会的に受け入れられるかだ。割増料金でも使わざるをえない人は使う。その人たちにしてみれば、すいている道路は無駄な道路で、混雑しているのは必要な道路を整備してくれないからだ、と映るかもしれない。丁寧な説明が必要であり、割り増し分で混雑区間の車線を増やすなど、混雑対策に還元することを考えるべきだろう」
「さらに道路に対する基本的な考え方の問題もある。道路はそもそも国民の共有物で、料金は公共料金だから、値段に差をつけるのはおかしいという考え方だ。誰でも平等に使えるようにすべきだというなら、料金に差を付けることに理解を得るのは難しいかもしれない」
――道路は税金でつくり無料公開するのが原則です。高速道路も借金を返済し終えたら、2065年以降は無料開放することになっています。
「江戸時代は関所があり、人々は自由に往来できなかった。明治維新で誰もが自由に往来し、ビジネスなどをできるようにするという考え方が生まれた。交通政策の根本には、国民の移動の自由は保障しなければならないという思想、意識がある」
――その無料開放の原則を転換し、永久有料にすることが議論されています。
「永久有料はかねて議論あるが、何を目的にするかがポイントだ。一つは『高速道路は一般道よりサービスがよいのだから特急料金のような形で料金をとるのはよい』という理屈だ。もう一つは借金を返し終わっても維持管理費はかかるため、その分を料金として取り続けるという考え方だ。私は維持管理コストがかかるし、高いサービスを利用できるのだから有料でよいと思う」
「永久有料にすると、償還期間が延び、毎年の返済額が減るため、足元の料金を下げられるという人もいる。移動の自由を保障するため、移動にかかる時間やコストを下げるのは交通政策の基本的な考え方ではある。ただ今の低金利が続いたとしても1割下げられるかどうかだ。永久有料にすると固定資産税を支払わなければならなくなることもあり、料金が下がる可能性はかなり低い」
――移動の時間を短縮する観点では、全国14000キロメートルの高速道路計画をどこまでつくるかも議論になりますか。
「高速道路ネットワークの幹になるところはある程度、整備が進み、今は未完成の『ミッシングリンク』をつなぐところに来ている。理念としてネットワークをつなぐことが重要だというのはあるが、幹が完成しているため地域の政策に移行している。高速道路をどこまでつくるか、かつてのように政治が決める必要がなくなり、財源を工夫して少しずつつくっている。永久有料の議論が出てくるのは、そうした環境の下で投資余力を出す狙いがあるのかもしれない」
「だが、永久有料は軽い課題ではない。道路の無料公開の原則をどうするか、移動の自由をどうするか、道とはいかなるものか、道路と国家との関係はどのようなものか、といった根本的な議論を時間をかけて深めていくことが必要だろう。永久有料はこうした思想的な意味でも難しいものがある」
――永久有料は早くても65年からで、まだ40年あまり先の話でもあります。
「永久有料を今、具体的に議論しようとすると遠い将来の空疎な議論になってしまう。だが、混雑時に料金をたくさん払うべきかという負担の議論が国民の間でなされ、その裏にある、道路はどうあるべきか、料金はコストに応じて決めるのか、需要に応じて決めるのか、といった課題について国民の理解が深まった先には、一つの可能性として、永久有料もありうるかもしれない」
(編集委員 斉藤徹弥)
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