とはいえ、父が実際に会社を辞め、1日中家にいるようになってからはさすがにヤバいと思いました。結局1年間、父は無職で、友だちに「オレんちの父ちゃんはずっと家にいる」とは言えず、次第に引け目を感じるようになりました。同時に、家計が大変なのに高い学費を払ってもらうことが申し訳なくなり、「高校には行かずに寿司職人になろうと思う」と当時の担任だった先生に打ち明けました。学歴なしに生きていくなら職人の世界しかないと思い、頭に浮かんだのが寿司職人だったのです。

驚いた先生は両親を呼び出し「息子さんはきっと後悔する。学費はたいへんだと思うけど、なんとか学校は辞めさせないでほしい」と言ってくれました。ところが両親は、最初から学費は貯金から捻出するつもりだったらしく、帰り道に「いきなり何を言い出すんだ。つまらんことを考えずに勉強しろ」と怒られました。でも僕がこのとき、何より衝撃を受けたのは、自分が世の中の仕組みや、お金を稼ぐとはどういうことなのかを何一つ知らないという事実でした。寿司職人になると言っても魚の仕入れの仕組みさえ知らない。「ああ僕はなんてポンコツなんだ」とがくぜんとしました。

世の中の仕組み、経済の仕組みを知りたいと切実に思った。

親には勉強しろと言われましたが、僕にしてみたら学校の勉強なんかしてる場合じゃない。世の中の仕組みを知らなくてはと焦りました。そこで中学2年の1年間、ひたすら世界史の教科書と資料集を読み込んだのです。

年表を見続けているうちに、僕が生きているこの時代、この瞬間も100年後の教科書の中では年表の中のワンシーンなのだという、「歴史の中を生きている感覚」を持つようになりました。歴史は繰り返すというのもわかってきて、世の中の仕組みを知るヒントを探り始めます。

まずは、すべての戦争に蛍光ペンで線を引き、それぞれの戦争の原因をノートに書いていきました。すると、あらゆる戦争の原因は「宗教」「賭博」「資源」「国家」の4つのどれかに当てはまっていると気づきました。戦争には必ず、利権が絡んでいる。つまりそこにお金の大きな流れがあるわけで、お金をもうける秘密が隠されていると考えました。僕は今でも新規事業を考える時、中学時代に気づいたこの4つの切り口を使っています。

たとえば「宗教」は人の信仰心に根ざしているので、それを信じる人は容易にお金を払う。現代に置き換えれば、ブランドやタレントは新しい宗教と言えるでしょう。「賭博」に人がお金を払うのは、人の欲や中毒性に根ざしているから。今ならゲームやメディアが当てはまります。「資源」は地球に存在するものを採掘していて原価がタダなのでもうかる。そう考えれば、仮想通貨は新しい資源です。「国家」というのは、生活の中で必ず必要とされるものに税金という名の手数料をかけているので、自然とお金が入ってくる仕組みです。GAFAなど巨大IT企業のプラットフォームビジネスはこの仕組みに近いかもしれません。

思い返すと、海城中学時代に自分が自立して生きていくために歴史を必死に学んだことが、その後の僕の進路や人生観、仕事観に決定的な影響を及ぼしています。きっかけは父の思いがけない離職でしたが、のほほんと生きていた僕に考えるチャンスを与えてくれたのですから、感謝しないといけませんね。その父は1年後に別の仕事を見つけて働き始め、おかげで僕は高校に無事進学します。後半では高校と早稲田大学時代、さらにリクルートを経て起業するまでの話をします。

(ライター 石臥薫子)

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