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幼いころの読書経験がその後の知的活動を高める

幼いころの読書経験がその後の知的活動を高める

若者の活字離れ――。読書論を巡ってはこんな表現が死語になるほど、本を読まない層が広がっているとの指摘が長年多い。本書『読書をする子は〇○がすごい』を読むと、著者が示す各種統計調査や教育現場で体験した実感をもとに、その深刻ぶりが明らかになってくる。SNS(交流サイト)での短文のみのコミュニケーションに慣れ切った学生の間で、読書という言葉のやりとりが衰えている実態を浮き彫りにする。著者が警鐘を鳴らすのは、読書量の減少が招く「学力の二極化」。読解力や語彙力に加え、文章の背景にある文脈から読み取る想像力を生かして、書き手の想いをつかみ理解する力。その欠如が、基礎学力の低下につながっているという耳の痛い指摘だ。その遠因は本を読まない本人よりもむしろ、読書の楽しさを伝えきれていない親世代にあるとする主張には思わず耳を傾けざるをえない。

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著者の榎本博明氏

著者の榎本博明氏

著者は1955年生まれで、東京大学教育心理学科卒。東芝で市場調査課勤務を経て、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程を中退、その後に同大院で博士号(心理学)を取得。川村短期大学講師、カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学大学院助教授などを経て、現在はMP人間科学研究所代表を務めています。主な著作に『伸びる子どもは〇〇がすごい』(日経プレミアシリーズ)、『ほめると子どもはダメになる』(新潮新書)などがあります。

読書は自らつかみ取る「能動的な行為」

活字と向き合う。大げさな表現をすれば、読書とは本来、こういう行為なのかもしれません。言葉や文章を理解し、これまで積み重ねた経験を生かして想像力を膨らませる知的作業の一つです。著者は現在の「国語」教育が、以前あった文芸作品や評論文を読解することから、問題文でPR文や契約文などを読ませることを主題とする実用的な文章の読解に移っていることに悲観的な立場を訴えています。学生の読解力が低下しているために、文芸作品を読むことよりも、必要にかられて「実用文」を読まなければならないというニーズに追い込まれているのだという解釈を提示し、持論を展開します。読書量の減少が招く想像力の低下、ひいては読書の楽しさが無くなりつつあることに深い憂慮を覚えていることが行間から読み取れます。

 どのような本を読むにしても、読書というのは作者が書いた物語や論理を単に受け取るといったものではなく、その文章をきっかけに想像力や思考力や想起力を駆使して自分なりの心の世界を築き上げていく、きわめて能動的な行為なのである。(中略)
本の場合、書かれている文字の列から、登場人物の容姿・容貌、服装、歩き方、しゃべり方、声、そのときどきの表情、周りの景色、状況、出来事の様相などを、想像力や論理能力によって頭の中に構成しながら読み進める必要がある。そうでないと内容を理解できないし、楽しめない。字面をただたどるのではなく、そこから具体的なイメージを立ち上げる心の作業が求められる。
ゆえに、本を読むことによって、文字から具体的なイメージを立ち上げる力が磨かれる。そうした経験が乏しく、想像力や論理能力、イメージ構成力が鍛えられていないと、読書を楽しむことができず、本が苦手ということになりがちだ。
(第3章 読書はほんとうに効果があるのか? 132~134ページ)

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