WHOが任命した科学者と中国当局とが共同で行った調査によるWHOの報告書は、ウイルスが研究所から流出した可能性は「極めて低い」と結論づけた。しかし、WHOの調査チームに対しては、科学者が独立した調査を行うことが許されない、生データへのアクセスが拒否されるといった妨害が行われたため、結論を疑問視する声が出ていた。

3月30日にWHOが報告書を公表した際、同機関のテドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長は、さらなる調査研究を求めて、「すべての仮説が検討対象から外れることはない」と述べている。

そして5月11日には、ファウチ氏が政治ニュースサイト「PolitiFact」に対し、ウイルスは動物から人間への感染を通じて発生した可能性が高いとしながらも、「別の原因があった可能性も存在し、それを解明する必要がある」と発言した。

火に油を注いだのは、最近になって判明し、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が5月23日に最初に報じた内容だった。米諜報(ちょうほう)機関のある報告書によると、19年11月、武漢ウイルス研究所の研究者3人が体調を崩し、病院での治療を求めたという。トランプ政権の末期にも、米国務省は、同研究所の研究者が「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と一般的な季節性疾患の両方に一致する症状」で体調を崩していたとの声明を発表していた。

生物兵器では「あり得ない」が

新型コロナウイルスを研究してきた疫学者やウイルス学者の大半は、このウイルスが広がり始めたのは19年11月だと考えている。一方で中国は、最初に症例が確認されたのは19年12月8日だと主張している。

5月27日に北京で行われた記者会見において、中国外務省の趙立堅副報道局長は、米国が「研究所からの流出説をあおっている」と非難し、米国は「起源追跡の研究にほんとうに関心があるのか、それとも注目をそらそうとしているのか」と述べた。趙氏はまた、3人が体調を崩したというWSJの記事も否定している。

一部の保守派の政治家や解説者が研究所流出説を支持してきたのに対し、リベラル派には否定的な意見が多く、特にパンデミック(世界的大流行)の初期にはそうだった。臆測の域を出ない流出説はまた、米中間の緊張の高まりにも寄与してきた。

5月26日に、武漢の研究所と新型コロナ感染症の関連性に関する情報の機密扱いを解除する法案が米上院で可決された際、同法案を立ち上げた共和党のミズーリ州上院議員ジョシュ・ホーリー氏は、「世界は、このパンデミックが武漢研究所の過失によるものかどうかを知る必要がある」と述べ、「1年以上にわたって、武漢ウイルス研究所について質問する人は陰謀論者の烙印(らくいん)を押されてきた」と嘆いてみせた。

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