「米国でも東海岸や金融業界ではブラックスーツに白シャツに赤いネクタイをビシっと着こなし、それが20世紀の男性ビジネスマンの勝負服でした。要するに競争に勝たねばならないという『制服』だったわけです。でも、その時代から何もかもが大きく変わりましたよね。ライフスタイルとか、価値観とか、自分の趣味とビジネスとのバランスであるとか。心の豊かさも、より追求するようになったのではないでしょうか」

――90年代はじめの日本はバブルのまっただ中で、ブランドブームに沸き、多くの会社員がお金のかかった服装をしていました。西海岸はずっと先を行っていたんですね。
「日本とは真逆だった訳です。服装だけじゃないですよ。東京の丸の内や大手町にあるような高層ビルは基本的にはダサい、ということになっていますので、シリコンバレーの社屋はフラットなキャンパスみたいなところが多かったですね。そして90年代、日本では米IT企業のラフな服装を参考にしたカジュアルフライデーが始まった。カジュアルフライデーって、なんか、頑張らないといけない、という感じですよね」
仕事服 自然環境にあわせて決めればいい
――日本は頑張る社会、という色合いが強いですね。
「日本の会社の基本原則はスーツを着てネクタイをして、むちゃくちゃ暑い夏でもスーツ文化を守って頑張ること。通勤の時だって、世界に類を見ない満員電車に乗って頑張る。うちは頑張る社会とは一線を画した感じで、はじめから服装は自由でした」

――2021年、環境省は初めてクールビズの実施期間を定めないとしましたが、大手企業などはまだ5~9月をクールビズ期間としています。
「クールビズって何か変だと思いませんか。何月何日から何月何日までクールビズですって社員に言わないといけないの? そもそも企業の皆さんも官僚のみなさんも、単に自然環境に合った服装をすればいいだけの話ではないでしょうか」
――日本の装いのイノベーション、革新はまだ先でしょうか。
「僕は『クールビズ』という定義そのものがなくなる日がきた時こそ、日本がようやく大人になれた、一皮むけたといえるんじゃないかと思います」

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