面白いのが、汚れたグレーのフラノスーツを雑居ビル「クムガプラザ」のクリーニング店に出すシーン。イタリアのスーツのブランドなどまったく知らないクリーニング店の店主に「なんだこの薄汚れた背広は。古着か?」といちゃもんをつけられると、「これはミラノの有名なテーラー、ブラルロで仕立てた限定品で、お前たちが一生働いても買えない高級なスーツなんだからな!」とムキになって怒るヴィンチェンツォ。

いやぁ、これにはウケました。そもそも、ブラルロなんていうイタリアのスーツブランドは聞いたことがない。クリーニング店のオヤジがスーツをめくって裏地を見ると、ご丁寧にも「BOORALRO・ITALY」という手縫いのタグがちゃんと付いている。きっとドラマ用にスタイリストや衣装さんが架空のイタリアのスーツブランドをわざわざ作ったんですね。おそらくモデルとなっているブランドは「イザイア」か「キートン」だな。

タキシード姿もひと味違う

カジュアルスタイルにも納得 作り手の「研究」見えた

そういえば、ナポリスタイルの開祖と言われているサルト(仕立屋)の名前が、ヴィンチェンツォ・アットリーニ氏である。氏の三男のチェザレ・アットリーニが、イザイヤやキートンの立ち上げに参画して、高級既製服の生産にも乗り出して成功を収めている。そのチェザレの長男で祖父の名前を継いだヴィンチェンツォ・アットリーニが立ち上げた今どきのイタリアスーツブランドが、ヴィンチェンツォ・カサノも絶対着ているであろう「スティレラティーノ」だ。なるへそー、タイトルにもなった主人公の名前「ヴィンチェンツォ」は、きっとここからいただいたに違いない。

ちなみにヴィンチェンツォはスーツスタイルだけではなくオフの時のカジュアルの着こなしも、今どきのコンサバスタイルでリアリティーがあって参考になる。

例えば前述のクリーニング店のシーンでの格好は、身頃と身幅をたっぷりととったロイヤルブルーのBDシャツの胸元を控えめに開けて着て、きれいなテーパードシルエットのベルトレス仕様のチノパンツ。乗馬シーンでは「バブアー」のビデイルに「ドレイクス」の大判のペイズリー柄のストールを無造作に巻いている。

登場するスーツは多様。ネクタイやチーフも気になる

極め付きは、雑居ビル「クムガプラザ」の屋上でイタリアから来た敵対するマフィアと対決するシーン。ネイビーのスリムフィットでダブルジッパーの今どきの「バラクータG9」を羽織り、インには、おそらく「ドルモア」か「ジョンスメドレー」と思われる淡いグレーのハイネックニット、パンツはこれもおそらく「インコテックス」か「PTトリノ」と思われるテーパードスリムのオフホワイトのチノパンツ。靴はおそらく「C&J」と思われる茶のスエードチャッカブーツ。バラクータG9のアイコンといえばスティーブ・マックイーンや高倉健が有名だが、クラシックシルエットではなく今どきのスリムシルエットのG9を格好良く着こなすファッションアイコンが、ついに登場である。

いずれにしても、ドラマの内容もさることながら主人公のスタイリングを作り手がよく勉強していて実に面白い。そうだなぁ、日本でリメークするとしたらヴィンチェンツォ・カサノ役は誰がいいかなぁ。吉沢亮か。佐藤健でもいいな。完成度を高めるためにスタイリストはコンサバが得意な人がいい。「着分は上々」の森岡弘氏がいいかな。それとも谷原章介氏のスタイリングも担当している村上忠正氏がいいかな。いっそのこと、「ビームス」のドレス部門のクリエイティブディレクターの中村達也氏にお願いしちゃいましょうか。

いで あつし
1961年静岡生まれ。コピーライターとしてパルコ、西武などの広告を手掛ける。雑誌「ポパイ」にエディターとして参加。大のアメカジ通として知られライター、コラムニストとしてメンズファッション誌、TV誌、新聞などで執筆。「ビギン」、「MEN’S EX」、JR東海道新幹線グリーン車内誌「ひととき」で連載コラムを持つ。

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