どこまで本当?「日本人の5人に1人が不眠症」の真偽

日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/6/29
ナショナルジオグラフィック日本版

写真はイメージ=PIXTA

「日本人の10人に1人が不眠で悩む」

「日本人の5人に1人が不眠症」

「成人の約30%に不眠が認められる」

病気に関する記事では、どれほど多くの人がその病気で悩んでいるか発症頻度を取り上げて解説していることが多い。例えば、不眠症についてネットで少し調べただけでも冒頭のようにさまざまな数字がヒットするのだが、記事によって数値が大きく異なる。不眠症に限らず、他の多くの病気についても同じような食い違いを見かけることがあり、疑問を持たれた方もおられるだろう。

ある病気の発症頻度を示すのに「有病率」が使われる。有病率とは、ある一時点において、その病気を有している人の割合である。有病率は国の健康施策や、将来必要とされる病床数や医療サービスを地方自治体が整備する計画(医療計画と呼ばれる)に必要不可欠な情報であるため、がんや生活習慣病などのメジャーな疾患については、厚生労働省などが国の事業として大規模調査を行い罹患(りかん)実態に関する正確なデータを集めている。

一方、それ以外の大多数の疾患の有病率については個別の研究者などが行う中小規模の調査が多く、病気の定義やデータの収集方法によって結果にばらつきが生じることがある。先の不眠症の有病率データはその一例だが、このような食い違いが生じる理由について解説しよう。

しっかりとした有病率を算出するには、いくつかのポイントがある。特に、「データの代表性」と「診断精度」が大事なのだが、いずれのハードルも高い。

まず、「データの代表性」とは、その有病率データが日本全体における平均的な罹患状況を正しく反映していることを意味している。「平均」と書いたのは、調査した地域や対象者の年齢構成などによって調査結果は影響を受けるからである。

相反する「データの代表性」と「診断精度」

例えば、私の郷里である秋田県のように高齢者が多い地域で調査すれば、睡眠障害の有病率は高くなる。睡眠障害はいずれの世代でも見られるが、高齢者では特に多いからである。また、同じ病気でも大都市、都市部、郡部では有病率が異なる。ストレス度や生活環境のためだろうか、大都市では不眠症が多い。

このような調査地域によるバイアスを避けるため、全国を多数のブロックに分類して、国勢調査のデータを元に調査地点や調査人数を決め、地点ごとに対象者を無作為に選ぶなどの方法がある。「層化二段無作為抽出法」と呼ばれる調査方法だが、これはとても手間や費用がかかる。

二番目の「診断精度」が大事であることは説明するまでもないだろう。正確な有病率を出すには少なくとも数千人から数万人単位で調査を行う必要があるのだが、血圧や血糖値測定など比較的簡便な検査で高精度な診断が可能な高血圧や糖尿病などと違って、睡眠障害を確定診断するには「睡眠ポリグラフ検査」などの特殊検査を行わなければならない場合が多い。しかも検査をするのは夜間になり、診断に手間がかかるのが大規模調査では大きなネックになる。

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