「自閉症」の現れ方はいろいろ 3歳男児と4歳女児は発達障害クリニック附属発達研究所所長 神尾陽子(2)

2021/6/17

「研究室」に行ってみた。

ナショナルジオグラフィック日本版

神尾陽子さんは、発達障害の研究はもちろん、行政への提案や支援の社会実装を主導してきた。
文筆家・川端裕人氏がナショナル ジオグラフィック日本版サイトで連載中の人気コラム「『研究室』に行ってみた。」。今回は「自閉症」について、発達障害クリニック附属発達研究所の所長で児童精神科医の神尾陽子さんに聞くシリーズを転載します。なかなかイメージしにくい「自閉症」について、神尾さんは科学的なエビデンスによってその実態を明らかにしてきました。治療のみならず支援の環境作りにも奔走してきた神尾さんの姿勢からは、より生きやすい社会になるように、という強い願いが伝わってきます。

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国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所で発達障害をめぐる研究と行政への提案を行い支援の社会実装を主導してきた神尾陽子さん(現・発達障害クリニック附属発達研究所・所長)に自閉スペクトラム症について伺っている。前回は、やや抽象的な議論に終わってしまった感があるので、今回は、自閉スペクトラム症を持つ子どもたちに、それがどんなふうに現れるかもっと具体的に教えてもらおう。

「実はすごく説明しにくいんです。自閉スペクトラム症の人って、知能に遅れのある人から、とても知能の高い人までいて、『こういう行動をする』って一言では記載はできません。おまけに、同じ人でも1歳のときから亡くなるまで、年齢によっても症状は違います。だから、具体的に説明するとしたら、やっぱり発達水準、性別、年齢などを想定しないといけないんです」

そこで「人と年齢」を設定する。「3歳の知的な遅れのある男の子」と「遅れのない4歳の幼稚園に行っている女の子」の2ケースだ。

「3歳で遅れのあるお子さんは、一番典型的です。3歳になると普通のお子さんはいっぱいしゃべるようになりますけど、まず言葉が遅れるので気づかれやすいんです。そして、言葉が出てきても、特徴的なのはおうむ返しといって、誰かが言ったのをそのまんま返すので、会話にならなかったりします。単語はたくさん覚えるけれども、あんまり人の動作や状態にかかわるようなことを言いません。『おなかすいた』『食べる』『飲む』という、自分がしたいことを伝えることがあんまりできないんです」

こういう言葉の出方を「機能的ではない言語」というそうだ。語彙が多くても、言葉の最大の「機能」であるコミュニケーションのためにうまく使えない。喉がかわいてジュースを飲みたいときにも、「ジュースを飲みたい」と言うかわりに自分で冷蔵庫に行って勝手に飲むようなイメージだ。

「子どもは、言葉を獲得していく中で自分の要求が伝わるようになったり、『あ、ブーブー』とか言うと、お母さんがそっちを見て『ああ、ブーブーだね』って一緒に喜んでくれたりして、共有する喜びを知るわけです。そういったことが対人関係の一番基礎ですよね。でも、遅れがある場合は、言葉が出てきてもそういうことに使わず、一人で黙々と本読んでいるとか、基本的には一人遊びが好きです。お母さんが一緒に何かしようと思って、子どもが遊んでいるものに手を触れたらパッと手を払っちゃう。たとえば何かを自分で楽しく並べていたとしたら、崩されるのがいやだから一人遊びの方がいいと、こだわりの部分もかかわっています。お母さんはすごい悲しいし、何とかして遊ぼうと思ってかかわると、子どもは余計嫌がって泣いたり怒ったりするんです」