米欧で進むグリーンリカバリー

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。日本ユニシス社外取締役。

佐藤 パンデミック後、世界経済はどのように復元していくべきですか。欧州連合(EU)は「グリーンリカバリー」を提唱していますが、「グリーンリカバリー」とはどのような経済ですか。

サックス 新たなウイルスの脅威、気候変動がもたらす災害、公害などの被害を最小限に食い止めることができる。あらゆるインフラは自然破壊をしない方法で構築される。電気自動車、太陽光発電、風力発電が当たり前となる。環境を破壊するハイドロフラッキング(水圧破砕=シェールガスなどが含まれる地下の岩盤に薬品などを含む大量の水を圧送して割れ目を作り,ガスを抽出する方法)のような手法は使用しない。このような世界の実現に向けて経済を復元していくのが、「グリーンリカバリー」です。

米国はEUと同じくまさにグリーンリカバリーの方向に進んでいます。トランプ政権時代とは全く違った経済をめざしていて、国民の多くがその方針を支持しています。米国経済は大きな転換点を迎えているのです。

佐藤 2030年の世界はどのような世界になっていると予測しますか。2030年までに世界はSDGsを実現できると思いますか。

サックス 現状をもとにあえて予測するならば、2030年までにSDGsを実現するのは難しいと思います。全世界が相当スピードをあげて17のゴールに取り組まない限り、厳しい状況です。SDGsでは「地球上の誰一人取り残さない(Leave No One Behind)」をスローガンに掲げていますが、2021年現在、パンデミック下であまりにも多くの人々が取り残されています。

しかしながら、私が言っているのは、2030年までは難しいだろうということであり、世界がSDGsそのものを実現できないという意味ではありません。世界各国がゴールの実現に向けて緊密に連携しあい、さらに注力していけば、もちろん長期的には実現可能です。

8年で月面着陸に到達した宇宙開発

サックス ジョン・F・ケネディ大統領(当時)は1961年5月25日に特別議会演説を行い、「1960年代が終わる前に宇宙飛行士を月面に送り無事に帰還させる」と宣言しました。どの科学者もエンジニアも月に行く技術を開発していなかった時代です。ところが米国はそれを実現してしまいます。アポロ11号に乗ったニール・アームストロングが人類として初めて月面に降り立ったのは、1969年の7月20日。ケネディが宣言してから8年後のことです。

現在は2021年。その8年後は2029年。8年あれば、何もないところから技術を開発して月面に行くことができる。米国、日本、中国、EUが連携して、SDGsの実現によりコミットし、尽力すれば、大きなことを成し遂げることは可能です。1969年の米国がそうであったように、2029年の世界も大胆な目標を成し遂げた世界であってほしいものです。

佐藤 サックス教授は2005年に出版された『貧困の終焉』の中で「2025年までに世界は貧困を終焉させるべきだ」と述べています。このゴールは実現できそうでしょうか。

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貧困の終焉、日本の高度成長モデルが力に
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