併用注意! 胃酸抑制薬と鎮痛薬 腎障害リスク3倍も
逆流性食道炎などの治療に用いられる、プロトンポンプ阻害薬(PPI)と呼ばれる薬と、ロキソプロフェン、ジクロフェナク、アスピリンなどの一般的な鎮痛薬または一部の抗菌薬(セファロスポリン系またはフルオロキノロン系)を併用すると、急性腎障害を起こすリスクが高まることが、日本で行われた研究で明らかになりました。
胃酸を抑えるプロトンポンプ阻害薬と飲み合わせが悪い薬は?
医師に処方された薬を薬局で調剤してもらうときに、薬剤師から「飲み合わせ、食べ合わせ」に関する注意を受けることがあります。特定の薬の組み合わせは、薬の効果を強めたり弱めたりするほか、有害事象を引き起こすこともあります。
胃酸分泌を強力に阻害するプロトンポンプ阻害薬(PPI)は、胃潰瘍や逆流性食道炎などによる胃痛や胸焼けなどの緩和や、再発を抑えるために広く処方されています(一般名:ランソプラゾール、エソメプラゾール、ラベプラゾール、オメプラゾール、ボノプラザン)。また、低用量のアスピリンを服用している患者の胃潰瘍、十二指腸潰瘍を予防するために、同時に処方されることもあります。これまで、PPIと他の薬剤を併用した場合に腎臓に及ぶ影響を調べる研究は、十分に行われていませんでした。
一方、ロキソプロフェン、ジクロフェナク、アスピリンなどの「非ステロイド性抗炎症薬」と呼ばれる一般的な消炎鎮痛薬は、多くが薬局で購入でき、鎮痛薬や解熱薬として使用されています。PPIを使用している患者も、意識せずに購入し、併用してしまう可能性があります。
今回、京都大学医学部附属病院薬剤部の幾田慧子氏らは、PPIと非ステロイド性抗炎症薬または各種抗菌薬(ペニシリン系、マクロライド系、セファロスポリン系、フルオロキノロン系)の併用が、急性腎障害リスクの上昇と関係するかどうかを明らかにするために、健康保険の医療費請求データベースからデータを得て分析しました(※したがって、今回の分析の対象となったのは、医師によって処方された薬剤に限定されます)。
PPIを処方された22万人のデータを分析
2005年1月から2017年6月までの期間に、PPI、非ステロイド性抗炎症薬、抗菌薬の処方を1回以上受けていた患者をデータベースから選出しました。それらの中から、PPIを新たに処方された、過去に腎臓病にかかった記録のない患者21万9082人を選んで分析対象としました。平均年齢は45歳で、44%が女性でした。それらの人たちを平均2.4年、51万9359人-年(※追跡した人数の合計と年数の合計を掛け合わせたもの)にわたって追跡したところ、317人が急性腎障害と診断されていました。
これらの317人を「ケース群」とし、これらの人たちと年齢、性別、追跡期間がマッチする、急性腎障害を発症しなかった人たちを、分析対象となった集団から発症者1人につき10人まで選出して「コントロール群」としました。コントロール群は3150人見つかりました。両群の患者に対する、個々のPPIの処方率は同様でした。一方で、腎毒性を有する薬剤、非ステロイド性抗炎症薬、ペニシリン系抗菌薬、セファロスポリン系抗菌薬、フルオロキノロン系抗菌薬の使用率は、コントロール群に比べケース群(急性腎障害発症者)のほうが高くなっていました。
PPIを使用したタイミングに基づいて、PPI使用者を以下のように分けました。
PPIの現在使用者の腎障害リスクは、過去の使用者の2.8倍
分析結果に影響を及ぼす可能性のある因子(腎毒性を持つ薬剤の使用の有無など)を考慮した上で分析したところ、PPIの「現在使用者」の急性腎障害リスクは、「過去の使用者」の2.79倍になっていました。一方、「最近の使用者」には、過去の使用者と比較した急性腎障害リスクの上昇は見られませんでした。
次に、PPIの現在使用者で、非ステロイド性抗炎症薬または抗菌薬を併用していた患者の急性腎障害発症リスクを、それぞれを併用していなかったPPI現在使用者と比較した結果を表1にまとめました。結果に影響を与える可能性のある因子で調整しても、PPIと非ステロイド性抗炎症薬、セファロスポリン系抗菌薬、フルオロキノロン系抗菌薬を併用していた患者の急性腎障害リスクは有意な上昇を示しました(それぞれ3.12倍、1.88倍、2.35倍)。
表1 PPIの現在使用者の急性腎障害発症リスク
急性腎障害の絶対リスクも、それらの併用群では大きく上昇していました(表2)。
表2 急性腎障害の絶対リスク(1万人-年当たりの未調整発症率)
以上の結果は、PPIと非ステロイド性抗炎症薬の併用と、PPIとセファロスポリン系抗菌薬またはフルオロキノロン系抗菌薬の併用が、急性腎障害リスクの上昇に関係することを示しました。非ステロイド性抗炎症薬は薬局で購入できることから、PPIを使用している人が鎮痛薬や解熱薬を使用する際には、注意が必要と考えられます。
論文は、2021年2月15日付の「BMJ Open」に掲載されています[注1]。
[注1]Ikuta K, et al. BMJ Open. 2021 Feb 15;11(2):e041543.
(図版制作:増田真一)
[日経Gooday2021年5月26日付記事を再構成]
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
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