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アジアから欧州目指し歩く移民 中継地で不安な日々

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ナショナルジオグラフィック日本版

アジアや中東から何千キロもの距離を歩き、ひそかに西欧をめざす移民たちがいる。警察の目を逃れ、犯罪者をやり過ごしながら国境を越えていくその危険な試みを、彼らは「ザ・ゲーム」と呼ぶ。

2015年、数千人の移民がギリシャから北上し、セルビア、ハンガリーを経由して西欧へやってくるようになった。しかし、17年、ハンガリーが国境の取り締まりを強化すると、ルートは西のボスニア・ヘルツェゴビナへと移った。

彼らはここから、欧州連合(EU)加盟国であり、西欧への入り口となるクロアチアに入国したいと考えていた。ボスニア・ヘルツェゴビナは、クロアチアと長い国境線で接しており、そこは山や川が多く取り締まりが困難なため、移民たちが西欧へ向かうルートの重要な中継地となった。

写真家のジヤ・ガフィッチ氏は、この1年間、母国ボスニアで移民たちの実像を記録してきた。「ゲームとは、より良い生活を手に入れるまでのプロセスのすべてを指しています」

ガフィッチ氏が取材を始めて以降、約7万人の難民・移民がボスニアを通過した。現在、ボスニアでは新型コロナウイルス感染症の第3波が発生しており、移民や難民をめぐる政治的・社会的な緊張が高まっている。

「歴史上ずっと、この国は人が去っていく場所でしたが、突然、EUの『門番』になったのです」とガフィッチ氏は言う。「ある意味、詩的です。けれど、私たちは彼らに基本的な安全を提供することができていません。煉獄(れんごく)のようなものです。ここにとどまって、国境を越える機会を待つだけなのです」

国際移住機関(IOM)によると、パンデミック(世界的大流行)の影響で、19年から20年にかけてやってきた移民の数は半減した。それでも、同国の5つの受け入れ施設は満杯で、約4700人の移民、難民、庇護(ひご)希望者が滞在している(いずれも国際法上は別のカテゴリー)。

これらの人々の数は数字としては小さいものの、移民たちは危険な状態にある。原因はボスニアの政治体制の複雑さだ。

1990年代にユーゴスラビアから独立して以来、ボスニア・ヘルツェゴビナは2つの自治的な組織から構成されており、それぞれが独自の大統領と法律制定機関をもっている。一方で、国家元首は3つの主要な民族の間で8カ月ごとに交代する。95年の和平協定によって導入されたこの権力分立の仕組みが、迅速な決定を阻んでいるのだ。

「ボスニアの状況の複雑さが、対応を格別に困難なものにしています」と、IOMボスニア・ヘルツェゴビナ支部代表のローラ・ルンガロッティ氏は話す。「多くの人がこれを移民危機と呼びますが、そこには誤解があります。すべての人のニーズと権利を満たす仕組みや戦略が、現時点で存在していません。そのことが、この問題を緊急かつ切実なものにしています」

移民受け入れ施設から医療サービスまで、あらゆることが政治的な緊張感を高め、分断を深めている。「国が分断されているのと同じだけ、この問題に関しても分断があります」とルンガロッティ氏は言う。

新型コロナウイルスの影響も

新型コロナウイルス感染症の第3波によって、ボスニアの病院の収容力は限界に達している。人口330万人に対して7000人の死者を出しているボスニアは、欧州で最も被害の大きい国の一つだ。AP通信によると、移民受け入れ施設では厳格な予防措置が取られていたにもかかわらず、4月、2週間のうちに147人が陽性反応を示したという。ほぼ全員が無症状で、隔離施設に移された。

ルンガロッティ氏が危惧しているのは、今回のパンデミックによって移民に対する国民感情が悪化することだ。「移民や難民、亡命者を、ウイルスのキャリアとして見るべきではありません。どんな立場であれ、ウイルスに感染する可能性があるのは同じです」

施設の外で暮らす推定1700人の人々にとって、ボスニアでの生活はさらに厳しいものだ。廃虚でキャンプをしたり、川で水浴びをしたり、たき火で料理をしたりしている。こうした状況と、それに対処しない政府の姿勢は、人権団体から広く批判されている。

世界各地で難民危機を撮影してきたガフィッチ氏にとって、不衛生で、冬は凍えるように寒い野営地は、パキスタンのペシャワルにあるアフガン難民キャンプや、バングラデシュのコックスバザールにあるロヒンギャ難民キャンプを思い起こさせるものだ。

90年代初頭にユーゴスラビアが解体し始めた時、ガフィッチ氏は12歳だった。両親は彼を連れてボスニアを脱出し、マケドニア、クロアチア、ハンガリー、イタリアなどを18カ月間、難民として渡り歩いた。当時、270万人ものボスニア人がガフィッチ氏と同じように故郷を追われた。しかし、そうした彼の友人たちの間ですら、貧困や遠く離れた紛争から逃れてきた人々への共感は乏しいという。

「土地を追われたというこの感覚は、なかなか抜けないものです」とガフィッチ氏は語る。「意識の一部にしみこんでしまって、常に旅をしているような気分なのです。今、ボスニアにやって来ている人々の中には、6年、7年、8年と旅を続けている人もいます。私にとって、彼らの状況に共感するのはあまりに自然なことです。他のボスニア人も同じように感じてくれると思っていたのですが」

ある施設でガフィッチ氏は、アフガニスタンからやってきた28歳のサフィと出会った。警察官だった父親が過激組織タリバンの拠点地域であるクンドゥズで殺された後、国を離れたのだという。サフィはボスニアで、英語と、4つか5つの言語との間の通訳を手伝っていた。

 彼は移民の中では珍しく、ボスニアに残って亡命を申請することにした。ボスニアにやってくるほとんどの人にとって、ここは通過するだけの国だ。のろく、混乱しているという評判を聞いて、移民たちは幻滅してしまうのだとルンガロッティ氏は言う。それよりも彼らは、イタリアやドイツ、スウェーデンに着くことを夢見ている。彼らにとっては、そうした国々こそが「ゲーム」に勝つための方法なのだ。

ボスニアの人々が同じような願望を抱いていたのは、それほど昔のことではない。飢餓や民族浄化、性的暴力が吹き荒れた90年代の内戦は、第2次世界大戦以降、欧州最大の難民危機を引き起こした。

「歴史的に戦争が多かったというだけでなく、経済的な理由からも、ここは常に人々が去っていく場所でした」と、ガフィッチ氏は話す。「15世紀からずっとそうだったのです。あの時、他の国々が払ってくれた努力、私たちが窮地に陥った時に提供してくれた援助を考えると、私はこの国が何らかの恩返しをするものと期待していました」

(文 NINA STROCHLIC、写真 ZIYAH GAFIC、訳 桜木敬子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年5月19日付]

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