ハナコ秋山寛貴 ドラマ脚本に挑戦、コントとの違いは
特集 新ヒットメーカーの条件(5)
ここ数年、エンタテインメントの"表"に立つ俳優や芸人などのタレントたちが、映画監督、脚本家、プロデューサーなど"裏方"のクリエーターとして才能を発揮するケースが目立っている。「キングオブコント2018」王者のお笑いトリオ・ハナコでツッコミとネタ作りを担当する秋山寛貴は、1月期のコメディ『でっけぇ風呂場で待ってます』(日本テレビ系)でドラマの脚本に初挑戦。シソンヌ・じろう、かが屋・賀屋壮也、空気階段・水川かたまりとのリレー形式での脚本執筆を通じて、コント作りとは異なる刺激を受けたようだ。
「お話をいただいたのは、昨年の9月頃です。芸人さんのリレー形式で2~3話担当とのことだったので、それならできるかなと思いました。ただ、同じ笑いがテーマでも、ドラマは初めてなので書き上げるまでは大変でしたね。銭湯という舞台や登場人物などの設定は決まっていて、最初はプロットをと言われたのですが、『プロットって何?』と調べるところから始まって(笑)。コントだといきなり台本を書き始めるものですから。
物語の設定や展開をまとめたものを4つくらい提出したのですが、そのうちの1つが第3話の『想い出は片付かない』です。演出の方から『画力の強いものから始めるといい』とアドバイスをいただいて、銭湯の脱衣所に忘れ物が山のように積まれたシーンをイメージしました。(主人公の)芯さんは男気あふれて他人思いだから、邪魔だと思ってもなかなか処分できないだろうと。そこから、登場人物たちが忘れ物を手に、持ち主たちの思い出を妄想していくという物語を作っていきました。
1番苦労したのは、やっぱり尺ですね。普段のコントは4~5分くらいのものが中心で、最長でも15分くらい。今回は正味23分くらいだったのですが、最初書いたものはやっぱり短くて。演者さんが脱衣所だけで延々としゃべる展開も映像ではしんどいと言われて、合間に風呂場でのやりとりを足したりして作っていきました。
コントは1つの設定だけで話を展開していきますが、30分のシットコムだと要素が3つ必要というのも今回教わったことです。第7話『銭湯の正しい入り方』だと、マナーに厳しくなった梅ヶ丘とその働きぶりを抜き打ちで見に来た姉の話に、最初に考えていた、お風呂に入ろうとしないお客さんが来たら……というアイデアも加えていって。従業員が生活している2階のシーンも入れて、映像的にも変化が出るように意識しました」
演出や監督にも興味あり
4人がリレー形式で担当した本作のように、最近は芸人がドラマの脚本を手掛けるケースが増えている。「YouTubeなどでコントを披露することで、企画力のある芸人さんたちが増えている印象がある」と秋山は話す。
「僕らも昨年の1月から、毎週火曜日と金曜日にYouTubeの公式チャンネルに新作コントを上げ続けています。映像だと一瞬の表情を切り取ったものなどもできるし、昨年のステイホームの期間にはリモートコントに挑戦したりと、舞台向けに作っていた時より、発想が広がったように思います。
スケジュールの都合で岡部(大)が参加できなかったときは、岡部の見た目が菊田(竜大)になったという設定で2人の菊田と僕が居酒屋で飲むコントを作りました(#10「トラブル」)。撮影の時間がどうしても取れずに、岡山の仕事から帰る新幹線の車内で3人個別の映像を撮影し、後から心の声をアフレコで加えて成立させたこともあります(#82「移動中ルーティーン」)。"脳トレ"のように試行錯誤し続けた経験は、今回の脚本にも生きていると思いますね。
チャンスがあるなら、ドラマの脚本はまた書いてみたいです。もともと芸人さんが好きでこの世界に入ってきましたし、やるなら絶対コメディ。30分番組で2話だけ担当した『でっけぇ風呂場で待ってます』でも苦労したので、1時間の連ドラを1クールなんて想像すると恐ろしいですが、人物設定をゼロから考える形でも挑戦してみたい。
演出や監督にも興味があります。もし自分に武器があるとするなら、生の舞台でウケるウケないという経験をしてきていること。セリフの間1つで笑いが変わるということを味わってきているので、それを生かせるんじゃないかなって。ちょっと偉そうですけど(笑)」
下町の銭湯を舞台としたシチュエーションコメディ。松見(北山宏光)と梅ヶ丘(佐藤勝利)が切り盛りする「鵬の湯」には、個性的な客が次々やってきてトラブルの連続に……。Huluでは全話配信中。
(ライター カネコシュウヘイ)
[日経エンタテインメント! 2021年5月号の記事を再構成]
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