日経Gooday

(イラスト:福田玲子、『「会社がしんどい」をなくす本』より)

左大脳半球の広範囲に及ぶ脳梗塞であったため、Fさんは2週間ほど生死の境をさまよい、命は取りとめたものの、右半身のマヒが残り右腕も右脚も全く動かなくなってしまいました。

さらに脳の言語中枢もダメージを受け、言葉が十分に話せなくなりました。言語中枢がやられると、思っている言葉が出なくなったり(運動性失語)、相手の言葉が理解できなくなったりします(感覚性失語)。

Fさんは、命こそは取りとめましたが、右半身のマヒと失語症のため働くことができない体になってしまったのです。

Fさんは長い入院生活を経てリハビリの結果、半年後には杖(つえ)を使った歩行ができるようになりました。言葉も「あ、これ」「うん、そう」などと片言ならば話せるようになってきました。

しかし失語症が完全には回復せず、会話が十分にできるようにならなかったため、休職満了の後、結局退職しました。

社員には健康診断を受ける「義務」がある

健康診断の結果を見ると、40代ぐらいから血圧や血糖値、コレステロールや中性脂肪など脂質関連の数値、肝機能を示す数値などに異常が出てくる人がグッと増えてきます。若いころからの暴飲暴食、喫煙、運動不足など、不健康な生活をしていた人ほど、異常値がどんどん出てくるのです。まさに今まで健康をなおざりにしていた人ほど、ツケが回ってくる時期だといえるでしょう。

私は産業医として多くの社員の健康診断の結果を日々チェックしていますが、Fさんのように高血圧が悪化したり、また糖尿病が本格的に出現して治療が必要になってきたりした人に出会うことがよくあります。

中には、あまりにも悪い数値のために、就業上の制限を会社に意見することもあります。高血圧や糖尿病、肝機能障害などが高度に悪化した人は、仕事中に危険な状態に陥ることがあるからです。

あなたは健康診断を毎年きっちり受けているでしょうか?

実は、社員が健康診断を受けることは、法律で義務として定められています。「労働安全衛生法」では、常時雇用する労働者に対して事業者(会社)が年1回、定期的に労働者の一般健康診断を実施することを義務付けています。それと同時に、この法律は、労働者側にも健康診断を受診する義務を課しているのです。

ちなみに労働者は必ずしも会社側が設定した医療機関で健康診断を受けなければならないわけではなく、自分のかかりつけ医などで健康診断を受けることも可能です。その場合は結果を会社に提出しなければなりません。

ごくまれに、「健康診断の結果は、個人情報だから会社に提出したくない」とダダをこねる人もいますが、法律で定められた項目(身長、体重、視力、聴力、血圧、尿検査、貧血、肝機能、血中脂質、血糖、胸部X線など)のデータは、会社に提出しなければなりません。

もちろん会社側は健康診断の結果について、慎重な取り扱いと個人情報管理の徹底を行わなければなりません。

労働安全衛生法では、労働者の受診義務違反に対する罰則は設けていませんが、裁判例では「事業者は労働者に対して健康診断の受診を職務上の命令として命じることができ、受診拒否に対しては懲戒処分を行う」ことが認められたケースがあります。

つまり1回受診し忘れた程度で処分を受けることはないかもしれませんが、もし何年にもわたって健康診断の受診を拒否し続けている場合は、業務命令違反として何らかの懲戒処分を科せられる可能性があるのです。

健康診断の結果を放置するのはリスクとデメリットだらけ

健康診断を受けた後、異常値が出て産業医や会社から2次検査に行くよう促されているにもかかわらず、受診や治療を拒否していたらどうなるでしょうか?

非常に血圧が高い状態や糖尿病が悪化していることを指摘され、産業医や健診医からもすぐに治療が必要と言われたのにもかかわらず、「医者が嫌いだから」と受診を拒否したり、「薬を飲みたくないから」と治療を断ったりする社員に時々出会います。

例えば高血圧の場合、健診結果で180/110mmHgを超えているような状態であれば、恐らく産業医からは「治療して血圧が下がるまでは残業を免除」もしくは「血圧が下がるまで休業が必要」といった意見が出されることが多いでしょう。

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