国際医療福祉大学の中川雅文教授(耳鼻咽喉科)は「音が大きいほど、聞く時間が長いほど耳へのダメージは大きい。耳が疲れると、さらに大きな音が必要になって悪循環に陥る。普段聞く音はできるだけ70デシベル以下に抑えたい」と説明。「イヤホンやヘッドホンを使うときには周囲の雑音を低減させる機能のあるものを選び、音量をできるだけ上げないで済むよう工夫したい」と呼びかける。

小川名誉教授は「既に加齢によって難聴の症状が出ている人がイヤホンを使うと、音量を上げてしまいがちだ。耳への負担が増して難聴が進行しやすい」と指摘する。

大人はもちろん、子どもでも耳への負担を意識する必要がある。WHOなどが示す音の大きさと1週間に聞く時間の許容範囲をみると、子どもは大人のおおむね3分の1程度が目安とされている。

家電が発する音や車の走行音、話し声など日常生活で接する音は意外に大きい。例えばドライヤーの音は100デシベルほど。WHOの基準からすれば1日に聞くのは15分が限度だ。こうした音からいっとき離れ、静かな環境で耳を休ませるのが大事になる。中川教授は「休むときには耳栓を活用するのもいいだろう。綿球を使うだけで5~10デシベルほど低減できる」と助言する。

糖尿病や脂質異常症といった動脈硬化を引き起こしかねない生活習慣病への対策も必要になってくる。「有毛細胞の周辺の血管は細く、動脈硬化が進むと、血流が滞ってしまって酸素や栄養がいきわたらない」(中川教授)からだ。喫煙も耳の聞こえに悪影響を及ぼすとの研究報告があるのだという。適度な運動や規則正しい睡眠、禁煙を心がけるようにしたい。

耳の衰えを自覚できるのはどんなときか。専門家が例示するのが「体温計などの電子音が聞こえづらい」「早口の会話が理解しにくい」といったこと。「佐藤」と「加藤」など子音の違いが聞き取りにくい、今であればマスクごしでの会話がよく聞こえない、といった場合も要注意だ。身に覚えがあったら、難聴が始まっている恐れがある。

「難聴対策は高齢になってからでは遅い」と小川名誉教授は強調する。人生100年時代、耳に負担をかけ過ぎないようにして、年を重ねても聴力を保ちたい。

(ライター 武田京子)

[NIKKEI プラス1 2021年6月5日付]

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