日経ナショナル ジオグラフィック社

アロノフ氏は、この研究の限界を指摘する。検査対象となった成人が比較的少なく、年齢の範囲も狭かったため、味覚の傾向と新型コロナの重症度との相関関係が、子どもや高齢者についても言えるのかはわからない。加えて、調査対象となった人々の間に何らかの別の違いがあり、それが結果に影響を与えた可能性もあると、アロノフ氏は言う。

さらなる研究が必要

新型コロナウイルスへの感染リスクが高い人々を特定できれば、社会が隔離策を終了するにあたって貴重なツールとなるだろう。バーラム氏の発見が示しているのは、味覚検査は、新型コロナやその他の感染症のリスクごとに人々を分類するうえで、安全、迅速、安価な方法になり得るということだ。

「現時点では、今回の研究結果は、病院での新型コロナ感染症の管理に役立てるには時期尚早でしょう。一方でこの結果は、何が新型コロナのような感染症に人をかかりやすく、あるいはかかりにくくさせるのかについての理解に影響を与えるかもしれません」。アロノフ氏はそう言いつつ、スーパーテイスターはこうした結論を過大に解釈すべきではないと強調する。「ブロッコリーが大嫌いだという人も、ワクチン接種を避けるようなことはしないでください」

米フィラデルフィアにあるモネル化学感覚センター副所長のダニエル・リード氏もまた、今回の発見を過大に解釈しないよう警告している。味覚と嗅覚の遺伝子の違いを研究しているリード氏は、今回の研究において遺伝子検査を担当したものの、結果に対する解釈がバーラム氏と一致しなかったため、著者として名前を連ねることを辞退した。

リード氏は、バーラム氏の分析においては「新型コロナ感染症における初期の主要な特徴である一般的な味覚の喪失」が考慮されていないと指摘する。その結果、被験者の中には「誤ってノンテイスターに分類された」人がいただろうと、氏は考えている。さらに、20年6月に医学誌「The New England Journal of Medicine」に発表されたゲノム解析研究では、T2R遺伝子がコロナの重症度に関与していると確認されなかった。

リード氏は言う。味覚検査を医療行為の一助とすることは「将来的な目標にはなり得ますが、最初に目指すステップは、味覚や嗅覚のスクリーニング検査を、視覚や聴覚と同じように、日常的な医療の一環として行うことです。味覚や嗅覚のチェックを通常の健康管理に加えることで、そうした感覚がどのように健康や病気を予測するかが判明すれば、有用なツールとなるかもしれません」

バーラム氏も、さらなる研究が必要であることを認めており、研究チームは味覚受容体と新型コロナ感染症との「関係を探る」ために、データの収集を継続しているという。氏はまた、ほかの感染症への応用にも前向きだ。「わたしたちは、この受容体ファミリーが、インフルエンザやその他の上気道感染症に対する自然免疫にどう影響するかについても研究を進めています」

(文 BILL SULLIVAN、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2021年6月1日付の記事を再構成]