思いついたのは、モナカにクリームとチョコを同時に充てんする方法だ。マイナス4~5度のクリームにやわらかいチョコを接触させ、瞬間的にチョコを冷やして固めるという過去に例がない挑戦。あまりに突拍子もない話に、製造工場から「そんなことできるのか?」という声が漏れたほどだった。

実現させるにはチョコの温度管理がカギだった。温度が高すぎると粘度が下がり、固まる前にアイスの側面から落ちてしまう。逆に温度が低すぎれば粘度が上がり、チョコが広がらずに十分な遮断ができない。「バニラモナカジャンボは2カ所の工場で製造されるため、どちらの環境にも適合する温度の条件を見つけるのに時間がかかりました。最低限のチョコで済むよう少しずつ条件を変え、試した数は優に100を超えます」(樫葉氏)

17年末にチョコミミのアイデアを思いつき、発売は21年3月。側面にチョコを付けただけの小さな変化に見えるが、実は丸3年もかけた一大プロジェクトだったのだ。
今回チョコミミが付いたのはバニラモナカジャンボだけ。これにも理由がある。チョコモナカジャンボは在庫の回転率が高いため、製造から購入までの期間が短く、パリパリ食感が保たれやすい。バニラモナカジャンボはチョコモナカジャンボより回転率が劣るため、それ以外の部分でのテコ入れが必要だった。
森永製菓がジャンボシリーズの訴求にパリパリ食感を押し出そうとかじを切ったのは01年。そこで考え出されたのが、工場での製造から出荷まで5日以内を目指す仕組み「鮮度マーケティング」だ。日々の出荷情報と日本気象協会のデータを突き合わせ、在庫を最小限にする販売計画を作成している。出荷情報からは、「人口密度が高いほど回転率も高い」「都市部は思いついたタイミングで購入するが、地方は計画的に車でまとめ買いする傾向が強い」など、地域によって細かい差があることが分かっている。
賞味期限のないアイスのカテゴリーにおいて、あえて鮮度で勝負する異例の商品。「全社的な協力と理解が必要で、ジャンボだけはやるんだ!という特別な取り組みです」(村田氏)。とはいえ、特にバニラモナカジャンボはマーケティングだけで5日以内の目標を完全に実現することは難しく、商品自体の質の面からもアプローチしたのがチョコミミのアイデアだったのだ。
パリパリ食感をさらに長持ちさせるため、研究所ではモナカに防水スプレーをかけるといった斬新な発想を繰り返し、塗装や自動車などの展示会に行くこともあるという。冷菓市場では異端ともいえる発想が、数年後にモナカアイスを一段と進化させるだろう。
(日経トレンディ 寺村貴彰)
[日経クロストレンド 2021年5月26日の記事を再構成]