動く被写体に威力 カメラを強化したXperia 1 III
佐野正弘のモバイル最前線
夏商戦を控え、スマートフォンの新製品が相次いで投入されている。そうした中、注目を浴びている機種が、ソニーのフラッグシップモデル「Xperia 1」シリーズの最新モデル「Xperia 1 III」だ。同社のミラーレス一眼カメラ「α」シリーズで培った技術で、カメラ機能を一層強化したXperia 1 IIIの実力を探ってみよう。
サイズはほとんど変わらず、ディスプレーは進化
Xperia 1シリーズは21対9比率の4K有機ELディスプレーと、3つのカメラを切り替えて一眼レフのような高度な撮影ができるのが特徴だ。3代目に当たる本機種は、どのような点が進化したのか、発売前の試作機で確認してみた。
まずは本体から。今回使用したのはソフトバンク版だが、ディスプレーサイズは21対9比率の約6.5インチ、本体サイズ約71(幅)×約165(高さ)×約8.2ミリ(厚さ)、重さ約188グラムと、前機種の「Xperia 1 II」(約72×166×7.9ミリ、約181グラム)とほとんど変わらない。
ディスプレーは先述のように映画などの視聴に適した21対9比率の4K有機ELディスプレー。フロントカメラをノッチ(切り込み)やパンチホール(ディスプレーに空けたカメラ用の穴)に設けず、ベゼル(額縁)に置いているのは、「映像視聴やゲームを邪魔しない」というXperia 1シリーズのコンセプトを継承したからだろう。
加えてXperia 1 IIIでは新たに「リフレッシュレート120Hz駆動」にも対応した。これはディスプレーの表示を書き換える回数を、通常の毎秒60回から同120回に増やすというもの。書き換える回数が多くなる分、表示がなめらかになる。ゲームなど動きのあるコンテンツをより快適に楽しめるだけでなく、通常操作で画面をスクロールする際の動きもなめらかになる。
リフレッシュレート120Hz駆動に対応したディスプレーを採用するスマホは増加傾向にあるが、それを解像度が非常に高い4Kディスプレーで実現したのは世界初とのこと。そのあたりがXperia 1 IIIのすごさといえるだろう。
背面は、表面をデコボコにした上で化学処理を施したフロストガラスを採用している。高級感のある手触りで、指紋も付きにくい。最近ではハイエンドモデルを中心に出っ張りが目立つ傾向にあるカメラ部分は、目立たない程度に抑えられており好感が持てる。
側面はボタン類を右側に集中させている。従来機種と同様、電源キーと一体の指紋センサーを採用しており、新型コロナウイルス禍の今でもマスクを外さずロックを解除できるのはうれしい。
Xperia 1シリーズではおなじみの物理ボタン「カメラキー」を側面に装備する。カメラキーを長押しすると、ロック状態でもカメラが起動し、撮影時にはシャッターボタンとしても機能する。このほか音声アシスタント「Googleアシスタント」を呼び出すためのキー(ボタン)が増えている。
動く被写体に強くなった3つのカメラ
続いてXperia 1 III最大のこだわりポイントであるカメラをチェックしていこう。
Xperia 1 IIIのカメラは超広角・広角・望遠の3眼構造で、Xperia 1 II同様レンズにはカール・ツァイスの「T*(ティースター)」レンズを採用。このうち望遠カメラはこれまでにない特殊な構造となっている。
というのもXperia 1 IIIの望遠カメラは、2つのレンズを切り替える可変式となっているのだ。焦点距離でいうと35ミリ換算で70ミリ(2.9倍)と105ミリ(4.4倍)の2段階に切り替えられる。このため3眼ながら、実際には4眼に相当する幅広いシーンでの撮影が可能になる。超広角カメラと広角カメラの焦点距離は35ミリ換算でそれぞれ16ミリ(0.7倍)、24ミリ(等倍)だ。
Xperia 1 IIIのカメラのもう1つの特徴はイメージセンサーである。3つのカメラのイメージセンサーはともに1220万画素と決して画素数が高いわけではないが、そのすべてに「Dual PD」という技術を採用した。
Dual PDはデュアルフォトダイオードの略。イメージセンサーの1つ1つの画素に2つのフォトダイオード(光を電荷に変換する素子)を装備して、一方を撮像用、もう一方をオートフォーカス用として活用する技術のことだ。Dual PDの採用でオートフォーカスがより高速になり、動く被写体の撮影に強くなる。
Dual PDはXperia 1 IIにも採用されていたが、対応していたのは3つのカメラのうち広角カメラ用のイメージセンサーだけだった。だがXperia 1 IIIは3つのカメラすべてのイメージセンサーがDual PD対応になったことで、超広角から望遠まで幅広いシーンで動く被写体の撮影に強くなった。専用のカメラアプリ「Photography Pro」では、被写体を追従してフォーカスを合わせ続ける「リアルタイムトラッキング」が利用でき、動く被写体を非常に撮影しやすくなっている。
そのPhotography Proも大幅に進化した。従来のPhotography Proは、αシリーズ由来のユーザーインターフェースでシャッタースピードやISO感度など細かな設定を変えられ、一眼レフカメラのようなこだわりの撮影ができることが特徴だったが、Xperia 1 IIIでは加えて「BASIC」という新しいモードが用意された。
これは通常のカメラアプリと同様、シャッターボタンを押すだけで手軽に撮影ができるモード。Xperia 1 IIIはPhotography Proが標準のカメラアプリとなっていることから、日常スナップの撮影やフロントカメラでの自撮りなどがしやすくなるようBASICモードを追加したとみられる。
ちなみにPhotography Proには動画撮影モードもあるが、従来機種と同じく、映像撮影専用アプリ「Cinematography Pro」も搭載している。21対9比率の4K映像撮影にこだわるならこちらを利用するのがよいだろう。
オーディオやゲームにも多くの進化
もう一つ、ソニーならではのこだわりを感じさせるのが音響面だ。360度立体音響技術「360 Reality Audio」に対応し、より臨場感のある音楽を楽しめる。ただし360 Reality Audioを体感するには対応のストリーミングサービスを利用する必要がある。このためXperia 1 IIIは通常のステレオ音源を立体的なサウンドに変換する「360 Spatial Sound」という機能を備えており、ヘッドホンがあれば手軽に臨場感のあるサウンドを体験できる。
ちなみにXperia 1 IIIは、ハイエンドモデルでは廃止される傾向にあるイヤホン端子を搭載しており、有線のイヤホンが利用しやすい。こうしたことからも音響に対するソニーのこだわりが見て取れる。
性能面を確認すると、チップセットにはクアルコムのハイエンド向けとなる最新の「Snapdragon 888」を搭載。RAMは12ギガバイト(ギガは10億、GB)、ストレージは256GBと、夏モデルとしては最高クラスの性能を誇る。
試しに人気の3次元(3D)ゲーム「PUBG MOBILE」のグラフィックス設定を確認してみると、現時点では最高画質の「FHD」、フレーム設定も「ウルトラ」で動作できた。
ゲームプレー時専用の動作モード「ゲームエンハンサー」では、ゲームを楽しむのに役立つ機能が充実。新たにゲーム画像の色を調整する「L-γレイザー(ローガンマレイザー)」という機能が用意された。これは暗いシーンを明るく表示して視認性を高め、敵を見つけやすくするといったもの。スマホゲームでもプレーの質にこだわる人にはうれしい機能だろう。
日常的に利用する上で重要なバッテリーの容量は4500mAh(ミリアンペア時)と、本体サイズが大きく変わらないのに、前機種のXperia 1 II(4000mAh)から増えている。IPX5/IPX8の防水性能とIP6Xの防じん性能を備えている点や、おサイフケータイの「FeliCa(フェリカ)」にも対応している点などは、国内メーカーならではの安心感だ。
通信は高速通信機規格「5G」に対応する。5G向けの周波数帯の中でも6GHz以下の「サブ6」に加えて、より周波数が高く高速通信が可能な「ミリ波」にも対応したのが前機種からの進化のポイントだ。ただしXperia 1 IIIはNTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクと3社から販売されるため、対応する周波数帯や通信速度は携帯各社のものに準じる形となることには注意したい。
まとめるとXperia 1 IIIはカメラを中心に機能・性能の成熟度が高まっており、使いこなせれば非常に便利で楽しいスマホといえる。その分使いこなすには一定の知識が必要で、やや玄人向けの印象もある。価格はドコモの公式オンラインショップで15万4440円とかなり高いが、カメラやゲーム、音楽などに人とは違うこだわりを求めているユーザーなら、それほど気にならないだろう。
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。
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