音楽界では、AIによってヒット曲を生み出そうとする「AI作曲」に注目が集まっています。そんな状況で、2月末にリリースされたのが「FIMMIGRM」(フィミグラム)。ボタンを押す度に、搭載するAIが楽曲の1フレーズ(8小節)を次々と生み出してくれる、無料のアプリです。ユーザーは、それを自由にアレンジすることができたり、アプリ内で撮影した写真や動画にBGMとして付けることも可能となっています。
監修を務めたのは、音楽プロデューサーで、音楽クリエーター集団・agehasprings(アゲハスプリングス)代表でもある玉井健二氏。開発の経緯や、アプリの特徴などについて、MTVジャパンやユニバーサルミュージックなどで新規事業開発を担ってきた鈴木貴歩氏が聞きました。
2021年2月22日に、日本、中国、韓国で同時リリースされた、無料のAI作曲アプリ。開発・企画は、音楽プロデューサー玉井健二が代表を務める、新会社TMIKが担当する。AIによって生成された楽曲は、お気に入りに保存したり、ダウンロードすることも可能。また音楽制作を行うユーザー向けに、MIDIデータとしてダウンロードし、自由にアレンジすることもできる。それらの楽曲の権利はユーザーに帰属するため、SNS上などでシェアすることに関しても、問題などはないようになっている。

ヒット曲の法則をインプット
――FIMMIGRMを開発するに至った経緯を教えて下さい。
2004年にagehaspringsを立ち上げ、大きくしていくなかで、若手クリエーターのサウンドメイク力が思ったように伸びないと感じた時期があったんです。理由を聞くと、「アレンジを施す前の、メロディーを作る作業に時間がかかっている」と。ならばそれを自動化し、若手の教材となるようなものを作れればと考えたのが最初のきっかけ。当初はランダムにリズムのパターンが出てくるようなものをイメージしていたんですが、17年ごろから話題になり始めたAIを活用して作曲できるアプリへと舵(かじ)を切りました。
また同時に、SNSの進化から、「全ての人がオリジナルの曲を持つ時代が来る」とも考えていたので、プロだけでなく、一般の方も楽しみながら使えるアプリを意識して作っています。

――FIMMIGRMが搭載するAI作曲の仕組みは、どのようなものなんでしょうか?
現在、特許を出願中のため、あまり詳しくは話せないのですが、AIってIQの高い赤ちゃんのようなものなんです。なので、いかにヒットするメロディーや法則を学習させるかが重要で、そのインプット作業にはこだわりました。音楽というものは日々進化しており、リズムや音像は時代と共に変わっていきます。ただ、人間がいいと感じるメロディーは実は昔からそんなに変わっていない。そのあたりを計算した楽曲をアウトプットできる能力を持たせています。
例えば、カノン進行(※)と呼ばれる、J‐POPのヒット曲に多く採用されている定番コードを使用した曲を生み出すにしても、それをヒップホップやロックのリズムに乗せるのか、もしくはカントリー調にすべきかなどを、FIMMIGRMが蓄積してきた学習データを元に判断するようになっています。
※応援歌といった一体感を生みたいときに採用されるコード進行の1つで、ZARD『負けないで』、大塚愛『さくらんぼ』などで使われている。