佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。日本ユニシス社外取締役。

佐藤 気候変動問題については、米国は後れをとってきた印象があります。今年に入ってから急に積極的になった要因は何ですか。

サックス 米国は、オバマ政権時代、気候変動問題の解決に向けた取り組みを主導していました。オバマ氏はこの問題に大きな関心を持っていましたから、2015年の気候変動枠組条約締約国会議(COP)においても、パリ協定の合意に向けて積極的な役割を果たしました。

オバマ氏とは対照的に、気候変動問題に全く関心をもたなかったのがトランプ前大統領です。トランプ政権は米国に悲惨な遺産を数多く残しましたが、その1つが気候変動問題に対する後れです。

短期的な視点のトランプ政権から転換

トランプ氏は石炭産業の復活を公約として掲げ、積極的に支援してきましたが、これには3つ理由があると思います。1つはトランプ氏が科学に対して無知であったこと、2つめが、公益よりも私欲を追求することにしか関心がなかったこと、そして3つめが、短期的な視点のみで政治を行っていたことです。

バイデン大統領は、昨年の選挙期間中、気候変動対策を最重要政策の1つに掲げ、オバマ政権時代の方針に戻すことを公約として掲げました。「気候変動は地球に危機をもたらしつつある。トランプ氏の政策は間違っている。トランプ政権下の4年間で、米国は脱炭素社会への移行が遅れ、テクノロジー分野でも後れをとってしまった」と繰り返し訴えました。バイデン大統領の現在の目標は、脱炭素社会への転換に必要なテクノロジーの開発を米国が主導し、パンデミック後により強い米国経済を築くことです。

今年になってなぜ急に米国の方針が変わったのか。その最大の要因は、政権が変わったことです。もしトランプ氏が大統領に再選されていれば、このような変化は訪れなかったでしょう。しかし米国民はバイデン氏を強く支持し、彼の気候変動問題への積極的な関与を支持しました。これは私たち米国民にとっては、計り知れないほど大きな意味を持ちます。今後、米国では二酸化炭素排出量ゼロに向けた生活を送ることが当たり前になっていくでしょう。

佐藤 新型コロナウイルスの感染拡大は米国の気候変動問題に対する取り組みにどのような影響を与えていますか。

サックス パンデミックは昨年11月の米大統領選挙の結果に決定的な影響を与えたと思います。新型コロナウイルス感染症による死者が増え続ける中、「トランプ氏は国民の命を守れない最悪のリーダーだ」と失望した人がたくさんいたのです。政権交代が米国の気候変動問題に対する取り組みを加速させたのはいうまでもありません。

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政府の重要性認識させたパンデミック
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