損得勘定より本当にやりたいことを選びなさい

生徒A この流れでこんなことを言うのは申し訳ないんですけど、みんなが勉強しているのは知っているのですが、私自身は本当はみんながどれくらいの成績をとっているのかがわからなくて……。

――学校のテストでは順位は出ない?

生徒A 高校生になると、10段階の分布表が配られるだけです。教科によっては平均点が明かされます。

――では、「みんなやってるじゃん!」って感じるのはどこで?

生徒D 問題集をやっているスピードとか、外部の模試を受けたときとか。

――学校から出る宿題は多い?

生徒D 基本的に宿題は出ません。でも、教科書の練習問題をやってきた前提で授業が進むので、予習してないとさっぱりわからなくなります。だからみんな必死で食らいついています。

生徒C たとえば数学では、先生に当てられたひとが答案を黒板に書いて、それをみんなで確認していくスタイルなので、みんなの前で間違えると恥ずかしい思いをすることになります。だからしっかり予習しておかないといけません。

生徒B みんなそこのプライドは低くないよね。

――なるほど。

生徒A 私の場合、中学受験のときはただ言われるがままに勉強していた感じでしたが、中学生で急に自由になって、自分の意志をもたざるを得なくなって、意志をもってここまで来たんですけど、大学受験を前にして、逆に自分の意志に邪魔されることが増えてきた気がしていて、中学受験のときほど勉強に集中できていません。優柔不断なので、文系、理系の選択も葛藤がありました。

西館地下1階の書道室

生徒B 文理の選択は関門だったよね。

生徒D 私は、将来のことを考えて、理系に進むべきなのかなと、昨年まで思っていました。でも、文理の選択のときに担任の先生に相談したら、「好きなことを選ばないと勉強は続けられないよ。そんなに文学が好きなら、文学をやったほうが楽しいんじゃない?」というアドバイスをもらえて、本当に自分のやりたいことを選ぼうと、覚悟が決まりました。

校内のテストで順位は出さない。ドリル的な宿題もほとんどない。仮に成績が悪くたって、責められたりバカにされたりすることもない。でも、努力して良い成績をとれば、素直に尊敬される。やるべきことをやれていないと、自分自身が許せない。そんな文化が、桜蔭にはある。

受験テクニックを教えているわけではない。東大や医学部を受験するようにと誘導しているわけでもない。桜蔭の進学実績を支えているのは、この文化なのである。

しかも書道で鍛えた、スランプを乗り越える力と集中力を兼ね備えた彼女たちは、鬼に金棒ではないか。私は大野さんにこっそり聞いた。「書道部の生徒たちは桜蔭の中でも優秀だったりするのですか?」。大野さんもこっそり答える。「すごく成績のいい子も多いみたいです」。

桜蔭中学校高等学校(東京都文京区)
創立は1924年。東京女子高等師範学校(現・お茶の水女子大学)の同窓会組織である「桜蔭会」のメンバーが設立した。初代校長は後閑キクノ。昭和天皇の后である香淳皇后の教育主任を務めた人物でもある。1学年約235人。高校からの募集はない。2021年の東大合格者数は71人で全国7位。東大・京大・国公立大学医学部合格者数の直近5年間(16~20年)平均は105.4人で全国15位。卒業生には、歴史学者の加藤陽子氏、政治家の猪口邦子氏、イラストレーターの水森亜土氏、アナウンサーの黒崎めぐみ氏、タレントの菊川怜氏などがいる。

(上)東大合格トップ女子校 桜蔭の原点は「学びへの渇望」

(下)桜蔭100周年で新校舎建築 あえてプールを残す理由

超進学校トップ10名物対決 (日経プレミアシリーズ)

著者 : おおたとしまさ
出版 : 日本経済新聞出版
価格 : 990 円(税込み)

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