次から次へと新しい技術や情報が生産され、洪水のように人々の生活を飲み込んでいく現代。ともすると、私たちはついわかりやすい意見や結論に飛びついてしまいがちになる。しかしそれは大変危険なことだと齊藤さんは指摘する。

「大前提が違っているのでは?」と気づく感性

「精神科医で作家の帚木蓬生(ははきぎほうせい)さんが『ネガティブ・ケイパビリティ(答えの出ない事態に耐える力)』ということをおっしゃっていますが、生徒たちにはまさにそのような力を身につけて社会に巣立っていってほしいと思います。そのためには、知識や論理の力だけではなく、『なんだか変だな』『そんなに簡単に解決するのかな』『そもそも大前提が違っているのでは?』という実感が大切です。桜蔭での6年間の学びを通して、明確に言語化できなくても、『おや?』と感じるバランス感覚を磨いてほしいと思います」

昭和初期の面影を残す本館

ものごとがどんどん進んでいくなかであえて一度立ち止まってみる力、みんなが当たり前だと思っていることをあえて疑ってみる力、そして、ときにはあえて予定調和的な空気に抗(あらが)う声を発する力……。

こう並べてみるといかにも現代風な力に思えるが、振り返ってみれば、大正時代において女子が男子と同等の教育を受ける権利を主張し実際にそのための女学校を創設してしまう力も、本質的には同様のものであったはずだ。桜蔭の本質は、やはり変わっていない。変わらぬ本質があるからこそ、そのうえに歴史が積み重なり、文化が醸成され、学校として進化し続けることができる。

桜蔭が桜蔭である限り、水泳の授業を終えた高校生たちが濡(ぬ)れた髪のまま公道を渡り教室に戻っていく風景も、きっとずっと変わらない。

桜蔭中学校高等学校(東京都文京区)
創立は1924年。東京女子高等師範学校(現・お茶の水女子大学)の同窓会組織である「桜蔭会」のメンバーが設立した。初代校長は後閑キクノ。昭和天皇の后である香淳皇后の教育主任を務めた人物でもある。1学年約235人。高校からの募集はない。2021年の東大合格者数は71人で全国7位。東大・京大・国公立大学医学部合格者数の直近5年間(16~20年)平均は105.4人で全国15位。卒業生には、歴史学者の加藤陽子氏、政治家の猪口邦子氏、イラストレーターの水森亜土氏、アナウンサーの黒崎めぐみ氏、タレントの菊川怜氏などがいる。

(上)東大合格トップ女子校 桜蔭の原点は「学びへの渇望」

(中)桜蔭生「勉強してない」は嘘 書道部員が明かす本音

超進学校トップ10名物対決 (日経プレミアシリーズ)

著者 : おおたとしまさ
出版 : 日本経済新聞出版
価格 : 990 円(税込み)

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