――勝ち続けられるのはAIソフトを研究に駆使しているからだとの声もあります。

「藤井二冠の強さとAIは直接の関係はないとみます。AIは評価値を示して好手か悪手かを教えてくれますが、その理由はブラックボックスのままで明かしません。AIがどんなに進化しても自ら考え自分なりの結論を出さなくては、実戦に応用できないのです。一方で人間らしい先入観や感情を排除したことで指し手の自由度が広がり、棋士にとってより強くなる環境が整ったことは確かでしょう」

2020年7月に初めてのタイトルである棋聖を獲得したときの藤井二冠(大阪市の関西将棋会館)

――現在の将棋界は歴史的な変革期にあると述べていますね。

「羽生善治さんは『令和の将棋界はカオス』と表現しています。現代将棋に対する捉え方は同じだと思います。AIによる研究の深化で序盤が多様化し、廃れていた江戸時代の戦法が新たによみがえったりしています。タイトル戦での総手数が以前より長手数になっている傾向はAIの影響でしょう。形勢が苦しくなっても戦意を失うことなくAIは最善手を求めます。その結果棋士同士の対局でも、長手数のねじり合いになることが多いのです」

――将棋界は日本の中で、最も早くAIを日常に取り込んだ社会のひとつです。今やAIソフトを使わないで研究するプロ棋士はほとんど皆無といって良いでしょう。

「私がAIを自宅のパソコンに装備したのは1年半前で、導入が遅れた棋士の一人でしょうね。自分の対局した棋譜を翌日にAIに判断させています。対局時に感じた形勢判断とAIがはじき出した評価値との誤差を縮めていくことで指し手の精度を高めていけます。これがプラス面。マイナス面は40年以上のプロ生活で築き上げた将棋観を一度解体するショックを味わうことでしょうね。ゼロベースから考え直さざるを得なくなることが何度もありました」